takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

悪魔の掌中その6

薄暗い街並みを、『カツッ、カツッ』と一本歯下駄で歩いて行く。家々に明かりが灯り、時々笑い声が聴こえてきたりする。住宅街をこの時間に歩いているのは彼一人だけだった。
その寂しさと対照的に、車道を自動車がひっ切り無しに行き交う。山での生活しか していなかったハヤテは、カルチャーショックで軽い頭痛が起きていた。
それでなくても今日は色々あった。15歳の少年の一人旅は、精神的にもキツイものがあった。たった一人の身内であった祖父が亡くなり、悲しみに浸る間も無く山を降り、そして見ず知らずの親戚に身を寄せ、世話にならなくてはならない。楽天家のハヤテだが、さすがに心身とも疲れ気味であった。気持ちも沈みがちになる。それを察したのか、いつもなら既に眠りについているリスの秀吉がポケットから抜け出して肩まで素早く駆け上がってきた。耳元で『キュッ、キュッ。』鳴いてくる。
はやては、秀吉をそっと掴んで手のひらに乗せ、顔の前に持ってきた。立ち上がって心配そうな表情を見せている秀吉に笑顔で、「ありがとう秀吉、心配してくれているんだな。お前や信長がいるから僕は大丈夫だよ。安心してお休み。」そう言うと秀吉は手のひらの上で喜んで『キュキュキュ~』と元気に鳴いた。そうこうしている間に目的の家にたどり着いた。成程、周りの家々とは明らかに造りが違う。昭和の初期に建てた家屋。しかし補修や手入れが行き届いているのか、崩れかけのイメージはなく趣きさえ感じられるのである。店は既に閉じているのか明かりはなく、カーテンが引かれていて中は覗けない。引戸はカギが掛かっているのか、引いてみたが開からなかった。ハヤテは顎に手をやり暫し思案をして、もう一度この家の全体を眺めてみた。すると来た時は気が付かなかったが二階の窓が開いていて、明かりが灯っている。(呼んでみるか!)ハヤテは両手をメガホンの様にして、「すいませ~ん、こんばんわ~。」と呼んでみた。反応はない。もう一度、以前よりもっと大きな声で「すいませ~ん!」と呼んだ。影が動いた。窓際に姿を現したのは、若い女性だった。と云うよりか少女だった。「あんた誰?!夜中に大声出してww。近所迷惑でしょ?!」窓枠から少し身を乗り出して、刺々しい声が降ってきた。「怪しい人ね~。警察呼ぶわよ!」ハヤテは、首を縮める様にして(うへっ。どちらが近所迷惑なんだよ~。そちらの声のほうが大きいじゃんか)と呟いた。
開け放っていた窓をピシャリと閉められ呆然とし、(どんな要件できたかも分からない者に、いきなり罵声を浴びせるなんて‥・。一体どういう教育受けているんだ)とぶつぶつ呟きながら(仕方がない、野宿出来る場所でも探すか・・・。明日、出直そう)踵を返し二、三歩歩きかけたとき店に明かりが点いた。「!!」暫く立ち止まり様子を見ていると、カーテンが少し開けられ、女の人が急いで鍵を外している。
『ガラガラガラ』ガラス戸が開いて大人の女性が現れた。「申し訳ありませんでした。どちらさまで?・・・え?あっ?ひょっとして丸ちゃん?」(丸ちゃん?人違いだ)ハヤテは「いえ、違います。」と一言いってどう切りだそうかと言いあぐねた。「え~?人違いじゃないよ~疾風丸君でしょ?」彼女は満面の笑みを浮かべて近寄ってきた。「よくきたわね~。」しげしげとハヤテを上から下まで見回している。「ま~、大きくなって~!でも目は龍兄い譲りだし、輪郭は澄ちゃん譲りのポッチャリ顔だから、すぐに判ったわ。」と朗らかな大声で言いながら、肩に手を置いてきた。「はあ、そうなんですか?」ハヤテは小首をかしげて苦笑した。物心ついたときには両親はいなかったから、返事も曖昧なものとなる。それに気付いた『おばさん』が、気を取りなすように「ま、ま、とにかく家にあがりなさいよ。食事は?まだのようね。よし!ご馳走つくるからね。うふふっ。」ハヤテの背中を押しながら家に入り、鍵を掛けて奥の方に進んで行った。