takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

悪魔の掌中その8

「あら~、ごめんなさい。ご馳走つくるって言ってたのに、冷蔵庫に食材、余り無いわね~」冴子はフライパンを火にかけ、油を薄く敷いて熱した後、磨ぎ卵を投入し素早く荒い目に掻き混ぜた。冷凍ベジタブルを少々とご飯と「え~と、ベーコンは~。あった!」フライパンに刻んでそれも投入。『シャカ,シャカ』と焦げないように炒めながら、味塩胡椒で味付けして炒飯の出来上がり。コンソメスープと、キムチの小皿を並べた。「急だったからね~、こんなものしか出来なかったけど、我慢してね。」と、苦笑した。「いえ。わ~、いい匂い!うまそ~!いただいていいすか?いただきま~す。」スプーンで一口、「うまい!」ハヤテは満面笑顔で冴子を見た。それから凄まじい勢いで平らげていった。ありきたりの食べ物でもハヤテにとっては高級料理なのだ。山で採れる山菜や畑で作る野菜が殆ど、キジ肉や時には猪の肉も食卓には出るけど、じいちゃんの味付け、料理はワンパターンだった。世間を知らないハヤテは、こんなもんだと疑問にも思わなかったから、時々読む雑誌の料理紹介があったとしても、何の興味も湧かなかった。だけど鼻が喜び、舌が驚き、喉がサンバを踊っているって感じだった。その間、ハヤテは幸福感に満たされていた。冴子は、その食べっぷりに驚かされ圧倒され、暫く唖然としたがこれまでの彼の生活環境を想像して涙が出そうになった。(でも、丸ちゃんの山での生活は人間形成にきっとプラスになっている筈だわ)そうも思った。「ね~ね~、カップ麺あるけど食べる?」冴子が言った。「かっぷ・・めん?あ、はい。それも美味しいんですか?」「ん~ん、とても美味しいわよ~」戸棚から○清カップヌードルを一つ取り出し沸かしてあったお湯を注いだ。(???)ハヤテが不思議そうにそれを観ている。フタをした。「えっ?」フタをした冴子を見た。驚いているハヤテの顔が可笑しくて思わず笑った。(丸ちゃん、ホントにいい子ダー。思わず抱き締めたくなっちゃう~)と危ない事を思い、また笑った。うまい、うまいとヌードルを頬張っているハヤテを見ながら、清志君が遅いのが冴子は気になっていた。いつの間にか自分の部屋に戻って行った麗美に階下から「清志くん遅いわね~、昨日何か言ってた~?」「ううん、イガグリ何も言ってなかったよ~」イガグリは麗美が勝手に付けたあだ名だ。毬栗頭のイメージで付けたのだが本人の前では言わない。いつもなら7時前には裏口から訪れるのだがと、首を傾げて考えていると、『ガタガタッ』っと建て付けの悪い裏木戸を開ける音がした。
「!来たようね~」その瞬間だった。既に麺を食べ終えスープを飲んでいるハヤテの神経に『ザワザワ・・・』と得体の知れない不吉な影が忍び寄り、寒気で一瞬ブルッと身震いをした。真夏の夜、割と風通しが良いのか網戸で充分蒸し暑さは凌げているのだがそれでも汗は出る。それが一挙に引いた。空気が明らかに変わった。それを感じとれるのは能力者だけだ。ハヤテは眉を潜めて、冴子を視た。冴子もこの異変を感じている顔付き。(あっ!おばさんも・・・)そしてやがて現れるであろうモノを二人は注視した。
「遅くなりましタ。」黒いオーラを身にまとい清志が入って来た。その瞬間、ハヤテは(あっ!)と驚いた。いがぐり頭に黒縁メガネ。線路に飛び込んだ学生だった。