takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

悪魔の掌中その10

清志が入って来たが、麗美はいつもの様に挨拶もせず今日教えてもらうページを開き、そこを見ている。母の冴子に口が酸っぱくなる程、人に対する礼儀に気を付ける様に注意されているのだが、本人はどこ吹く風と知らん顔である。いつもなら、机にノートと筆記用具を置き、既に用意してある椅子に遠慮がちに座る清志なのだが、真横に立ったまま微動だにしない。それでも、暫くは教科書に目を落としたまま、麗美は待った。(なんなのよ~全く~!気持ち悪いわねー)根負けして不審な目付きで清志を見上げた。(ひっ!)氷の様に冷ややかな眼差しで見下ろしている彼の目と合った。ゾーッとした。冷や汗が出て、寒ツボが全身に出ているに違いない。彼はゆっくりと口を開きこう言った。「この僕が、こんなに力を注いで教えているのに余り成績が伸びないですね~。だから今日は、頭の働きが活発になる薬を持って来ました。僕もこれを飲んで成績が上がったんですよ。さあ、飲みなさい。物凄く冴えますから。はい口を開けて!」ポケットから、市売品のドリンクと、水色っぽい錠剤を一粒だし、目の前に突き出した。さすがの麗美も恐怖を感じたが、椅子に座っている為、身動きがとれない。どうしようかと躊躇していると、「仕方ない子だ。はい!あーん」顎を掴まれ強引に口を抉じ開けるともう片方の手の指に摘ばれた錠剤を放り込もうとしてきた。(これは絶対ヤバイ薬だ。いやだ~飲みたくない、誰か助けて~)声が出せない。麗美は机の足置きを力一杯蹴って後ろ向きに椅子ごとひっくり返っていった。『ゴゴーン!!』二階の床から異常な音を聞き、心配で見上げていた二人は、思わずお互いの顔を見合せた。