takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブ#その4

門扉が開放されていたので、速度を落としながら警備室前を通り過ぎようとした。すると2メートル程手前で警備員が体を乗り出し腕を平行に伸ばしながら停止の合図をした。
ヘルメットを被っていたから聴こえ辛いと思ったのか、指で一角を示し(そこに停めろ)と意思表示した。(わかった)と言う代わりに首を2、3度振りエンジンをとめスタンドを立ててヘルメットを脱いだ。警備室に警備員は1人だけだった。表情は柔らかくなっていたが隙のない目つきでこちらを見ている。窓口まで行き正対した。「工場に何か御用でいらっしゃいましたか?」そう訊かれた。
「アルバイトをしたくて来ました」素のまま応えた。「面接の予約はお取りですか?」と台帳のようなものを広げて見ている。「いえ」申し訳なさげに俯き加減にそう応える。「そうですか~。残念ながらそういう方は入場をお断りしてるんですよ。申し訳ないですが一旦お帰り頂いて、予約を取ってからお越し下さい」丁寧だが声に有無を言わさない響きがある。(ここで引き下がれば元の木阿弥だ。なんとしても・・・)「あ、あの!なんとかなりませんか?入れてください、お願いします!」深く頭を下げる。「いえ!だめです!そういうわけにはいきません!」警備員の表情が厳しくなった。
「お願い。おねがいします!」土下座せんばかりに腰を折り頭を垂れた。「あなた!これ以上無理を言うのなら警察に通報しますよ」警察ときいてドキリとし(あww無理かww)と諦め掛けた時、音もなく黒塗りの乗用車が受け付け前で停まった。それを見た警備員の背筋がピンと伸び緊張の面持ちとなった。そうしながら(まずいところへ・・・)と言うようにちらちら、こちらの様子を伺っている。「お疲れ様です、常務。おでかけですか?」最敬礼をした。「や、スーさん。ご苦労さん。ちょっと山岡工業まで打ち合わせに行ってくるよ」温和な表情のその男はそう言いながら(何事?)と云う風にこちらを見た。(常務?えらいさんか?ひょっとしてチャンス?)「すいませんアルバイトに使ってもらえませんか?」「この通りお願いします」本当に土下座した。警備員が真っ赤な顔で飛び出してきた。「ちょっとあんた失礼じゃないか!早く帰りなさい!」そう言いながら腕を持って強引に立たせようとする。常務とよばれた男は黙ってその様子をしばらく見ていたが唐突に「あんたいくつ?」と訊いてきた。一瞬静寂がうまれ自分に問われていると気がついて顔を上げ常務の目を見た。常務はにこにこ笑っている。「あ、はい。葛城工業高校一年、15歳です!」「そうか~うちは高校生のバイトは募集してないんだよ」「ところで君、頭おおきいね~。帽子のサイズいくつだね」と訊かれた。(嫌な事訊きやがる。ひとの気にしてるとこなのにww)「あ、はい60センチです」むっとして応えた。「いやww良い頭の形だ。君、成績優秀だろ?それにその広いおでこもそれを物語っている」顎に手をやり品定めするように角度を変えてはこちらを繁々と見ている。そして、「ふむ」と言って考えるようしばらくの間、空をみていたが「よし特例で採用してあげよう」そういって警備室に入りどこかに電話した。「電話しておいたから玄関から入って総務課の林という人に申し出なさい。細かい事はそこでやってもらえるから。しっかり働いてうちの役に立ってくれよ」肩をひとつポンと叩き、車に乗り込み行ってしまった。その車を呆然と見送りながらじわじわと喜びが胸の奥に湧いてきた。