takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

悪魔の掌中その12

ハヤテは夢を観ていた。それは摩訶不思議なゆめだった。柔らかいソフアーに座っている。やけに大きなサイズのソフアーだ。隣には巨人の様な男性がテレビを観ていて、時々こちらを見て優しい笑顔で話し掛けてくる。だが何を言っているのか、さっぱり解らない。自分は手にしているミニチュア・カーに夢中で相手なんかしていられないのだ。と、その時チャイムが鳴って、その男は立ち上がっていった。ここで別の自分が(ああ、全て大きいのは自分が小さいからなんだ。僕の赤ん坊の時か?)と、気がついた。横にいた(おそらく父さん)男性がいなくなったので急に寂しくなった。顔を上げると朝の日差しが窓から差し込んでそこだけ絨毯が眩く目に痛い。ふと窓の外を見てみると、どうしようもなく触れたくてたまらない姿が眼に映った。思わずソフアーから滑り降りて四つん這いで窓際まで進んだ。サッシに手を掛け、伝いながら立ち上がった。いつも見ているから、サッシがどうすれば開くのか解っている。手に少し力を入れれば滑るように窓が開いていった。ふらつく体のバランスをとりながらベランダに出ると、洗濯物を干している愛しい姿が見えた。(この感情は・・・母さん!?)朝の風は爽やかで心地よい。
ベランダには小さいが綺麗な花が咲き乱れ、二匹の蝶が戯れている。近付いて触ろうとすると、蝶は二匹が絡み合いながらフワフワと手の届かない高さまで舞い上がった。手を差し出したが空を切る。触りたい!と思ったら自分の身体が浮き上がった。蝶は驚いたように、ベランダから大空へと舞い上がる。蝶しか眼に映らない。
手を伸ばし浮遊して追いかける。ふと後ろを振り返ると、母であろう人が僕の名前を呼びながら、手すりに手をかけ飛ぼうとしている。僕はおいでおいでをして、翔ぶのを待った。母は翔んだ。そして僕を抱きしめてくれている。とても幸せな気分だ。このまま永遠に翔んでいたい。そう思っている僕を何故か離して、母は更に空高く昇っていった。しきりに手を振って、笑顔なんだけど、目に涙を溜めている。(待ってよー)と心で叫んだけど、どんどん離れて行って、やがて光り輝く空の彼方に溶けていった。
ハヤテはハッ!として、目を覚ました。蛍光灯の光が眩しく目に飛び込んできた。
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