takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブ#その9

イブと向かい合って食事をしながら、所博士はしみじみと思い出話を語りだした。
「私は人型ロボットを造ってみたいと幼少の頃から思ってはいたが、それは漠然としたものだった。そして年月の積み重ねによって少しづつ骨格が出来、おぼろげながら形がまとまりつつあった。しかしそれを造り上げて何になると考えた時、はっきりとした答えは出せないでいたんだ。世界に発表して、地位と名誉、莫大な報奨金を得て長者になるのも悪くないと思ったり傭兵型ロボットやスパイ用として、野心のある国に売れば寝て暮らせるほどのお金は手に入るしな」イブの反応を伺う様にここで一息入れた。イブは伏し目がちにコーヒーを飲んでいる。「実際、宝くじで10億円が手に入らなかったらお前は存在していなかったのだからな。お金は喉から手が出るほど欲しかったのは間違いない。今はそのお金も殆どお前に注ぎ込んだから厳しい生活なんだけれど、これで良かったと思っているんだ」そう言ってイブの表情を覗き見る。イブは淡々と食事中だ。「なぜ私は幼い頃から秘密主義を貫いたか?防衛本能が自然に働いていたのだと思うんだ。世間に知れれば、良い事より圧倒的に悪いことの方が多いと感じたからな」「自分の身に危害が及ぶ恐れもあるし、奪われて戦闘兵器に改造されるおそれもある。幸か不幸かあの石がなければ、バッテリーか太陽エネルギーに頼らざるしかなく、いずれも人型には不向きだからな。余程超小型で大容量のバッテリーを開発しなきゃ無理だろうな」
博士は己に納得させるようにひとつ頷いた。


「そんなある時会社の食堂で昼飯を食べていたら登山者が遭難しているとのニュースが流れた。猛吹雪によって救出困難で救助隊も動けずにいるとの報道だった。一刻を争う時に何もできない悔しさを隊員が語っていた。それを観て答えが出たんだ。世の中の役に立てるロボットを造ろうとな」目玉焼きを半分切り分けて口に運ぶ。いつどう食べたのかイブの皿には目玉焼きはもうなかった。博士は少し驚いた顔でイブに声を掛けようとしたがやめて話を続けた。「生身の人間が踏み込むことの出来ない場所や作業を、人型故に柔軟で適応性が発揮できるロボット。だけど、見かけは軍事産業に目を付けられないようスマートな女の子が良いと判断して決定したんだ。だから、お前がそこにいる」そういってパンを千切り口に放り込んだ。「こういう話、今のお前に理解できないかもしれないがな」博士はため息混じりにそう言って、さめかけのブラック・コーヒーの残りを一気に飲み干した。