takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブ#その10

 朝食をたいらげ、イブの皿を見てみると既にきれいになっている。
「ごちそうさま」と手を合わせるとイブも手を合わせた。「美味しかったかい?」と、聞くと少し間があいて頷いた。博士は食器類を片付け流し台に持って行き、替わりに少し大き目のコップに水をたっぷりと入れてイブに渡した。
暫くコップの水を眺めた後、一気に飲み干し立ち上がる。「あそこだよ」と、トイレを指差すとひとつ頷き、ゆっくりと歩を進めた。
人間と同様なら、機械に不必要な[食べる]という行為もまた取り込むべきなのだ。味覚はないが人工頭脳が[おいしい]と発する信号をイブに伝達する。
租借してゲル状になった半液体は蠕動作用により所定の容器に納まるが、体内に長く溜めておきたくない。水と数滴分泌する洗浄液で洗い落とさねばならない。
今日は試験的に実施したが、通常時は洗浄液消費の観点から頻度は限られる。
(まずは及第点だな)博士は机上の本立てよりチェック表を抜き取り項目に従いチェックし、気がついた点を細やかに備考欄に記入した後、洗面所で洗顔を済ませ居間で白衣に着替えた。(さあ、第二段階に入るかな?イブの人工頭脳は私の持っている力を全て注ぎ込んだ究極の超高性能コンピュータだ。私が必要だと判断した文献が分野を問わず余すところなく収まっている。イブは生まれながらにして世界一の知識人となったわけだ) 博士は満更でもないとt云う顔で顎に手をそえた。(発声はまだだが、一言発すれば後は大丈夫な気がする。子供が一輪車に乗れる過程の様にな)(だから、次なるチェックは可動能力、人で云う身体能力の見極めだな)思考に耽っていて傍にイブが来ているのに気がつかなかった。
「おっ?イブ。終わったのかい?手は洗ったんだろうな~?」つい、幼子に問いかける調子でたずねた。すると、顔の表情が明らかに変化した。眉間に皺が寄り険しい目つきで「レディ・・・二・・タイシテ・・シツレイ・・ナ・・ハツゲン・デス」
思わずぎょっとしてイブを見詰め、注意されて当然の発言だったと顔を赤らめた。
(なんたる対処理能力。普通に話せる様になるのは時間の問題だな)博士は俯き加減でひとつ咳払いをして「すまん、許してくれ」と、素
直に謝った。顔を上げイブを見ると既に表情は元に戻っており、いや初期の無表情な顔つきがやわらかさを含んだ[人]の顔へ変わってきていた。博士はほっと一息つき「じゃあ外にでてみようか!」「おっとその前に・・・」と言ってデスクの足元に置いてあるケースを取ってきた。