takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブ、原点回帰・その4

キリクノのメンバーを帰した後、使用中の札に差し替えて5人は応接室に入った。
高畑の隣にイブが座り、テーブルをはさんでゆったりと3名が座れるソファーに左から橘、昭雄、美鞘の順で座った。いつもなら来訪者を応接室に招くと、流れとしてイブがお茶を用意するのが普通なのだが、なぜかイブは席に着いて立ち上がろうとしない。何となく部屋の空気が重い。
高畑は隣のイブをちらっと見た後、立ち上がり「ちょっと、席を離れます」と言って部屋を出て行った。皆、疲れ切った表情で、黙り込んでいる。いつもならこういう時、場を盛り上げる筈の橘までもが俯いてテーブルを見つめ続けている。ドアをノックする音に皆が顔を上げると、盆に麦茶を入れたコップ載せて高畑が入って来た。「冷たいお茶でもどうぞ」とコップを配る。皆、頭を下げて礼を述べ目の前に出されたお茶を見つめる。配り終えた高畑が座ると同時にイブに穏やかな笑顔を向け「イブさん」と声を掛けた。イブは高畑に顔を向け「はい」と暗い目で見返した。しばらく無言の状態でいたが、諦めたようにイブの口が開いた。「私は今までロボットであることを秘密にしてきました。人間社会に私の存在は余りにも奇異で、受け入れてもらえないとの考えに至ったからです。
私の殻・・・というか人型ロボットを造ってくれたのは所 典夫という工学博士です。博士は、私を救助に役立てるロボットにしようとしました。そのことに異議はなく、むしろ感謝したいくらいの思いでした」皆、イブの話を一字一句漏らさないよう真剣に耳を傾けている。「私の話を聞いて、皆さん疑問が湧くでしょう?機械なら、コンピューターならYESかNOでしか話せないはずだと。日本的には白か黒だと。実はコンピューターを媒体として声を発してはいるのですが、核には小さな惑星からここに逃れて来た『赤い石』が組み込まれているのです。自分自身で『赤い石』と言っていますが、この星ではそう呼ぶのが妥当だと思うからです。『赤い石』は、この星で云う地球外生命体で、永久的にエネルギーを発生することが出来ます。当然、生命体なので『心』を持っています。その上、博士は感情回路という独自で開発した、より人に近づく為の成長型人工頭脳を私に装備してくれた。だから、地球人的な言葉を用いれば『赤い石』と『成長型感情回路』のハイブリットで物事を判断し行動するロボットだと云えます」ここでイブは一旦話す事を停め、理解できているか皆の顔色を読んだ。皆が自分の目を見て頷くのを確かめて話を続ける。「私のロボットとしての構造は極簡単にいうとそんなところです。説明し出すと限がありませんから。私はこの地球、とりわけ平和なこの日本で人の役に立ちながら、第二の故郷として生きて行こうと決めたのです」そこで皆の顔を見渡しながら、微笑んだ。橘は、自分の方にイブが顔を向けたのを機に「それは素敵な事だと思うよ、イブちん。俺は、誰が何と言おうと、あんたをべっ視したりしないからな」ちょっと顔を赤らめて、剝きになって言う。イブは「ありがとう、橘さん」少し笑って俯き、また話し出す。「ところが博士が忽然と姿を消してしまったのです。私の能力を測定している日だった。私は行き場を失い、終着点である公園のベンチにただ座り、博士を待ち続けたんですが・・・現れませんでした。そこに、偶然にも私・・・ごめんなさい『赤い石』が着陸した時最初に見た人が来ました。公園の近くにある工場に勤めていたんです。それから色々あって、彼とその家族と共に生活しだしたんですけど、そんな時まさかあの悪名高い怪物と出会うとは思いませんでした。生命が存在する惑星を次から次へと葬る為に生まれ出た怪物。正式名は知らないけれど、グレート・デストロイと呼ばれ恐れられている怪物です。
彼は、既に私のことを調べ上げていて、消されたくなければ大人しくしていろと脅しをかけて来ました。彼が狙いを付けたら、その星は終わったも同然といわれていましたから、私も諦めかけたんですけど、テレビを観ている時まさかグリーンビッチ星の最強武器を手にしている者がいるとは・・・。その驚きは、希望に変わりました。彼を追い出せるかも知れない。いや、倒せるかも、と。
でも、それを手にしているのは、見た目にもか弱い女の子です。何とか私が加勢し、一致協力して倒さなければとの思いに至ったわけなのです」すると隣に座っている高畑が、「ちょっ、ちょっと待ってくれ」と言い出した。「今の話、途中から何か理解できなくなってきたんだけど。どういうことなのかな~。グリーン?ビッ?チ星の・・・最強兵器?武器?何だいそれは。そんな大それた物、誰が持っていると云うんだ?しかも、星を壊して渡り歩く、歩くっていうのはおかしいか~。そんな怪物がこの地球上に現在、存在しているってこと?イブさん、あなたにしては冗談がきつすぎるんじゃないか?」
まさかイブがそんな戯言を真面目に聞いている皆の前で言うとは思っていなかったというような不信の眼差しで高畑が繁々と見ている。