takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブ.原点回帰・その7

野花公園に来たのは今日で6日目だ。もちろん毎日車が借りられる訳では無い。

最初の1、2回は担当医の松本先生が「治療の為に」と口利きをして貰ったのもあり、事務方も快くキーを貸してくれたのだが、

最近では「伊藤さん、確かにあのワゴン車は普段使わないけどね、だからといって好きに乗り回して貰うのはどうかと思うよ。ガソリンだってバカにならないし、あなたが外出している間人手が足りない時だってあるんだから」と、婦長を通して苦情を伝えて来ている。

(今日も手掛かりがなければ、残念だけど田中さんには外出を諦めてもらうしかないわね)今回も浮浪者のおじさんとシートの上で胡座を組んで楽しそうに話をしている所博士を、暗い表情で見た。公園に来て既に1時間が過ぎた。そろそろ引き揚げなくてはならない。自分が腰掛けている石のベンチの横に停めてある車椅子のハンドルを握ろうとした時、隣に白い夏のドレスを身にまといそれに合わせる様に柔らかいレースの帽子を被った若い女性が腰掛けた。伊藤は不意な出来事だったので「あっ!どうも」と言って女性を見た。絵に描いたような美女だと思った。その女性も「あっ、どうもすみません」とニコリと笑い頭を下げた。伊藤は看護師という職業柄左腕を包帯で吊っているのが気になって、「骨折されたのですか?」と訊いた。「ええ、まあそんな所です」とイブは答えて、ふと少し離れた所にいる二人の男性を見た。一瞬目をこれ以上開けないくらい大きく見張り、口をポカンと空けた。そして隣の伊藤に僅かに聞こえる程の声で「所博士」と呟いた。