takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

悪魔の掌中その11

即座にハヤテの身体が反応した。二階の踊り場まで一気に飛んだ。それはジャンプでもなけりゃ浮遊でもない。飛ぶという表現が当て嵌る。 昔の建家なので二階まで階段に沿って上がれば五,六メートル程。じいちゃんの下駄は履いていなかったが、現在のハヤテは精神集中をすれば、これぐらいの高さなら自力だけで飛べるようになっていた。一瞬麗美の部屋が何処なのか迷ったが、ドア下部の隙間から明かりが漏れていたので、そのドアのノブを引っ張った。(開かない!)押しても開かない。鍵が掛けられている。階段を上りかけている冴子に向かって「叔母さん、鍵!」と叫んだ。一瞬、間を置いてから、(ハッ)としたように冴子が急いで戻り、食器棚の引き出しの中にある鍵束を持ってきて階下から、ハヤテに向かって投げた。
そして「パンダのキーホルダーよ!」と、叫んだ。「分かった!」上手くキャッチしたハヤテは、ノブに駆け寄り鍵を差し込む。『バーン』と開け放ったその先には今まさに、清志が麗美に馬乗り状態から薬を口元に持っていく瞬間だった。
「何をしている!止めろ!」ハヤテは清志を引き離そうとした。小柄で華奢な清志だから難なくそれができると読んだが、石のように動かなかった。顔面を殴ったがこれも無駄だった。「クソー!!」思わず天狗の団扇を手に持ち吹き飛ばそうと腰に手を伸ばしたが手のひらに感触がない。(しまった!天狗の面と一緒に隣の椅子の上に置いたんだった~)その時、顔色を変えた冴子が部屋に足を踏み込みざまに、深く息を吸い込んだ。そしてその口元からソプラノの美しい歌声が聴こえてきた。天使の歌声のようだったが聴いていられたのは一秒にも満たない。あっという間に深い眠りに入っていった。