takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブ#その5

(あのころは楽しかったな)
授業中でもバイトでのことばかり考えていた。
入社したて、電子回路基盤と配線とのハンダ付けも初めての経験だから集中できた。しかもお金が貰えると思えば張りも出る。
3ヶ月があっという間に過ぎた頃、総務の林さんから事務室に来るように云われた。「どうだい?仕事は慣れたかな?」目が笑っている。「はい!最初はコツがつかめず苦労しましたが、ようやく他の人並にこなせる様になりました」誇らしげに答えた。「そうか」と言ってひとつ頷いた後「実はな明日から違う部署についてもらいたいんだ」そう切り出した。「はあ」と生返事した。(バイト生はハンダ付けだけじゃないのか?)腑に落ちなかった。「開発部に行ってほしい」「え?開発部ですか?」開発部は高学歴の頭脳集団だと聞いていた。科学、工学の大学を優秀な成績で卒業したエリートたちの活動する場だ。「そこで3ヶ月見習いとして入ってほしい」「もちろん時給も上げるから」時給アップは嬉しいが何の為にそんなところへ行くのか意味がわからない。首を傾げていると、「矢野常務からの申し出だ」と林が言う。「えっ矢野常務からの命令ですか・・・」余計に分からなくなった。「まっ、とにかく明日からな。」「それで僕は何をすれば・・」不安になり、おずおずと尋ねた。「何もしなくていいらしい」林さんは苦笑混じりに言った。「えっ?何もしないんですか?」呆然として立ち尽くした。(さすがにあの日の夜は落ち込んだな。間に合わないから仕事をさせずに自発的に辞め るようにもっていかれたのかと・・・)


自分の目指すものと異なる完成品。しかし根っこは同じところだと思っていた。人間に寸分違わぬロボット。今の宇宙服を着てぎこちない動きの如何にも『機械です』を主張している代物じゃない前代未聞のパーフェクトな人型ロボットを実現化させる。その為の基礎知識が得られるのか?全く次元が違っていて却って惑わす基とならぬか?しかし長い歳月幾多の秀でた研究者が一つ一つ築き上げて今がある。それをぶち壊して一から出直す事は暴挙と思われた。骨格に使う超合金、筋肉や皮膚に使う化学物質やゴム成形、血液の代わりとなる電流を各所に流し込むケーブル線。永年交換しないで済むような特殊オイル。そして肝となる人工頭脳、等等。本で知識を得るばかりじゃなくこの手で触ってヒントとしたかった。バイトを切っ掛けに高校を卒業したら晴れて正社員として雇ってもらい、活動範囲を広げながら夢に近づけていこうと計画していた矢先の移動だった。(こうなりゃこれを機に好き勝手してどんどん知識を自分の為に取り込んでやろうやられる前にやってやれ、だ)「私も若かった。常務がどんな思いで私を開発部に入れたのかが読めなかった。結果とすればその行動は常務の構想に沿ったものとなったがのだがな」博士は顎に手をやって口元を緩めた。