2022年2月のブログ記事
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一本歯下駄に指を通しながら「ちょっと出かけてきます。」と店を出たのが10時前。店の前は、本道から外れた枝道だから車の行き来も少ない。しかも通勤時間帯はとっくに過ぎている。ハヤテは、のんびりと街並みを眺めながら歩いている。本道に入ると、さすがに騒音が激しくなる。山を下りた当初に受けたカルチャーショッ... 続きをみる
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次の日の朝、ハヤテは心地よい気分で目が覚めた。昨夜の夢が、鮮明に蘇ってくる。(じいちゃんが天国から僕を応援してくれてる。たぶん母さんも)カーテンを開けると、朝日が差し込んでパーッと部屋を明るくした。窓を開ければ、爽やかで新鮮な空気が風と共に入ってきた。おおきく深呼吸しながら、(そういえば、此処に来... 続きをみる
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いつの間にか太陽は西に傾いて茜空となっていた。「何かあったの?」と、好奇心で目がぎらついている立山に、冴子が事の成り行きを短くまとめて話して聞かせた。 立山は「へー!」とか「あ~そう!」とか合いの手を入れながら、やけに楽しそうだ。「・・・っとまあ、こういうことだったのよ。」冴子がやれやれ疲れたわと... 続きをみる
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「私は随分と悩みました。大学4年生になっていて、周りは皆、就活に励んでいます。今になってマルサンから方向転換は、目標を失うことに等しい。ですが、現状を見ると入社できたとしても魅力の持てない箱の中で、終身勤め上げなければならない。もしかして、喜びも見つけられず苦痛だけの日々を定年まで続けなければなら... 続きをみる
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伊藤は少しイラついていた。店長の大学生時代の話はいつまで続くのかと。祖父の偉大さは赤の他人に言われなくても俺はよ~く解っている。今は時々しか会う機会がないが、幼少の頃はとても可愛がってもらった。祖父から直接仕事の話なんか子供の自分には話すわけがなかったが、両親から事ある毎に偉業を聞かされ育ったから... 続きをみる
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「私はね~、大学生になりたての頃、本屋さんで何気なく一冊の経済誌を手に取ったんですよ。ほんとに何気なく、ぺらぺらと流し読みしてました。 そして中ほどのページで手が止まったんです。独占インタビューの記事でです。頭の禿げ上がった如何にも人の良さそうな初老の方が写ってました。タイトルには『小さな雑貨店か... 続きをみる
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薄暗い通路を通り、冴えない表情の伊藤が事務所に入っていく。社員たちは、いつもの様に机に向かってパソコンの操作や、打ち合わせをしているが、雰囲気がいままでと違っていると感じた。それは、伊藤が入室した途端に変化したものだと気付く。(皆が俺を意識している。すでに俺の素性が広まったか?) 「おい、北村~。... 続きをみる
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ふたりを乗せた車があざ笑うように伊藤の目の前を通り、走り去っていった。ドアの外に出ていた社員や野次馬達も、ひとりふたりと店内に戻って行く。 悔しさに唇を噛み締めていた伊藤だったが、何かを思いついたように従業員通用口の方に駆け出した。従業員通用口は、ひと気のない店の裏側の一角にあった。従業員のみが出... 続きをみる
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レンタカーの適度にエアコンが効いている車内でシートを倒し、立山は両手を頭の後ろで組んで目を閉じている。 清志は、デパートの正面玄関の方を呆然と見て冴子らが出てくるのを待っている。 「あれ?!立山さん!あれ、響さん達じゃないいですか?」その言葉に立山が体を起し、出入り口を見た。「何か、変じゃないです... 続きをみる
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前回と前々回はファイザー、今回はモデルナ。以前同様、当日と次の日腕に鈍痛がしていたがそれも治まった。人によれば高熱が出て2.3日寝込むものもいるという。イヤミな同僚と話すと、接種後の体調が軽い者は効き目が薄いかも知れんぞと何の根拠もなくのたまった。こう言うデマを流す輩が少なからず居る。そう言う者に... 続きをみる
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今、ユーチューブで民謡日本一の朝倉さやさんがjーポップを東北弁で歌っていて話題になっている。その声は3オクターブは有るだろうし高音部も涼しい顔で難なく出せてるのに驚く。私の幼少の頃は三橋美智也さんが民謡上がりで素晴らしいのどを披露し、ヒット曲を連発し、有名どころでは金沢明子さんや細川たかしさん。み... 続きをみる
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冴子は事務所の扉を開け放ち一段と歌声を張り上げた。冴子の歌声を聴かせて眠らせる能力は、移動する際には不利となる。 歌声が届かなくなれば、術にかけられていた者はすぐに目覚める。現状を取り戻す時間は個々によって違い、普段の寝起きとほぼ同等だ。 だが目覚め後も、いきなり眠ってしまったというショックと夢の... 続きをみる
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伊藤が、いきなり専属キャラクター云々と口走ったので冴子たちより店長がびっくり顔で彼を見ている。目の前に置かれたコーヒーも目に入らないようだ。 「い、伊藤君、そりゃあ先走り過ぎだよ~。海のものとも山のものとも・・・いや、失礼。と、とにかく何の肩書きもない君が勝手に推し進めることじゃないよ。今日のとこ... 続きをみる
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窓際の上座に冴子、その隣にハヤテが居心地悪そうに座っている。冴子の前に店長がお飾りで座らされ、伊藤だけがやけに満面笑顔でふたりを見つめている。ふたりの前に名刺が差し出されている。名刺にはマルサンデパート如月支店・店長 里中秀雄とある。「こちら店長の里中です。」と伊藤が紹介すると、営業的な作り笑いを... 続きをみる
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立山はシートを少し倒してぼんやり車外の景色を見ている。太陽の光で何もかもが白っぽく映っている。(働き口を早く見つけないとな・・・) トントンとリヤ・ウインドゥを叩き、顔を向けると清志が覗き込んでいる。体を起し、少し開けて「開いてるから入れよ。」と、声をかけた。 後部のドアを開け、座席に座るなり、「... 続きをみる
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一方、冴子とハヤテはまだ柱の影に潜んでいた。一度出掛かったが、冴子が何を思ったのか直ぐに引き返したのである。 ハヤテの耳から栓を外し、「まるちゃん、作戦変更するわ。これだけ大勢の人達を眠らせたら、間違いなくけが人が出るわ。見て。あそこにエスカレーターが動いているし、こちらに幅の広い階段がある。エス... 続きをみる
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店長は思わず両肘をデスクにのせて手を握り、その上に顎を掛けてため息をついた。伊藤の提案をのんでしまった自分が情けないこともあるが、今後の展開に不安を感じずにはいられなかったからだ。店長は頭の中で若手社員の伊藤とは、どういう社内評価なのかを思い浮かべた。確か伊藤は入社5年目で、過去に本社勤務の経験も... 続きをみる
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「やばいことになっちまったなww」2Fの通路をひた走りながら、目を皿の様にして冴子を探すハヤテ。 ふと、目の端に何かが引っかかった。急停止し、よく視ると婦人服売り場の柱の影からニョキッと腕が出て手招きしている。 (もしや、あれは・・・!)ハヤテは柱の影に近づいた。やはり、冴子だった。姿勢を屈め「「... 続きをみる
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この大型ショッピング・センターは広大な立地面積を誇るが高さは然程ない。階は1階と2階だけだ。1Fは西から電化製品や靴屋、本屋、軽食・ファースト・フード店があり、東側に薬や化粧品売り場。そして最も大きくスペースをとり食料品売り場がある。それらの中央に位置する所にイベント広場があり、土、日祝祭日には幼... 続きをみる
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「ふー!」と大きく息を吐き「まっ、これで取りあえずはいいでしょ!」と満足げに微笑む冴子の横で、大袋を両手に提げて疲れ切ったハヤテがいる。 「パンツの裾直しは後日になったけど、また立山さんを頼むか、それが無理ならバスでも来られるから。」ねっ、とハヤテに笑顔を向けた。 適当に頷いているハヤテから目線を... 続きをみる
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やがて一同は郊外にある大型ショッピング・センターに着いた。広大な駐車場と、どっしりとした存在感のある建物。遠くからでも見える大きな看板。 ハヤテは「わ~すげww!僕が住んでた日和山よりでかいんじゃないんかな~!」と、思わず感嘆の声を上げた。 そして、色とりどりに空に浮かんでいるアドバルーンを興味深... 続きをみる
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軽く昼食を摂った後4人は車に乗って郊外の大型ショッピングセンターに向かった。ハヤテの身の回りの物を買うためだ。 「清志君、本当に帰らなくてもいいの?あなたを送ってから出直してもいいのよ。」と、冴子が言う。 「いえ、いいんです。たまには僕も楽しみたいんです。一緒に連れって行ってください。今回のことで... 続きをみる
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『喫茶サンシャイン』で話しているうちに昼前となり、軽食をオーダーすることにした。 冴子はミックスサンドセット。サンドウィッチにコンソメ・スープが付いてくる。立山はミート・スパゲティのセット。これもスープつき。 清志とハヤテは少しボリュームのある、ハンバーグ定食のライス付。食事中は話す言葉も少な気で... 続きをみる
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「その頃俺は22歳だったから龍二さんはひとつ上の23歳。斑目は30歳を越えてたんじゃないかな?普通で考えりゃぁ、修羅場をくぐって凌いでいるあの組長や斑目などの組員からしてみれば、口を利く事さえも許さない一般庶民のただの青年。その彼に、たった一夜の数時間でわけなく仕切られてしまった。 鞍馬一族の者か... 続きをみる
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「じゃあちょっとあちらに行こうか。彼らも落ち着きを取り戻したみたいだからな。」龍二がスツールから降りた。それを立山が横目で見ていると、 「何している、お前も行くんだよ。」と、龍二が声を掛けた。(えっ?俺も?勘弁して欲しいな~)と、思いつつも逆らえるわけがない。言われるままに後に続いた。「親分さん、... 続きをみる
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皆は再びクラブに戻った。いつの間にか一般客は居なくなっていた。ママが帰したのだろう。元のテーブル席に組長と若い衆がふたり。龍二と立山も元の止まり木に座って、斑目だけが出口に近い一番端の止まり木に移動して死人の様に俯いたまま微動だにしていない。 立山が他の者に聴こえない様に龍二の耳元で囁くように話す... 続きをみる