takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

それぞれの過去・その4

皆は再びクラブに戻った。いつの間にか一般客は居なくなっていた。ママが帰したのだろう。元のテーブル席に組長と若い衆がふたり。龍二と立山も元の止まり木に座って、斑目だけが出口に近い一番端の止まり木に移動して死人の様に俯いたまま微動だにしていない。
立山が他の者に聴こえない様に龍二の耳元で囁くように話す。「龍二さん、少し訊いてもいいですか?」龍二は、なんだ?と云うように立山の顔を見て、「ああ。」と頷き前に向き直す。「龍二さんのチカラなら、完璧とはいかずとも、応急処置的に傷口を塞ぎ止血することもできたんじゃないですか?」少し驚いたように、また立山を見て「お前、さすが超能力に詳しいな。」と苦笑した後「一旦傷口を塞いでその上からサラシを巻けば、命に別条は無くなり緊急性も緩くなる。だがそれだと遣り過ぎなんだよ。人を死に至らしめる道具を使えばどういう事になるのかあいつ等の脳裏に焼き付かせる為に敢えてしなかった。だから今も奴らは深刻な顔をして苦い酒を飲んでる。もし、俺が傷口を塞いでやったら推らく大笑いで乾杯してる気がする。斑目の失態も無かったことにしてな。そうなれば俺の有難みも薄れ、約束事も酒と共に忘れっちまうかも知れん。これでよかったんだよ。」そう言って龍二は安ウイスキーの水割りを飲み干した。