takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

それぞれの過去・その5

「じゃあちょっとあちらに行こうか。彼らも落ち着きを取り戻したみたいだからな。」龍二がスツールから降りた。それを立山が横目で見ていると、
「何している、お前も行くんだよ。」と、龍二が声を掛けた。(えっ?俺も?勘弁して欲しいな~)と、思いつつも逆らえるわけがない。言われるままに後に続いた。「親分さん、そこ良いですか?」ホステスを追っ払って男3人で飲んでいる。組長の服部が顔を上げ、ふたりを見た。服部は如何にも親分らしい押しの強そうな恐持ての顔と恰幅のある体型をしている。歳は60歳半ばとみえる。「おお~、先ほどはすまんかった。ま~ここに座ってくれ。」急いで手下を追い払うと席を空けた。龍二が言う。「多分、病院からか若い者からか電話が掛かってくると思う。撃ち込まれた弾丸が体内にないのはどういうことかと・・・。彼らにうまく惚けるように言っといて下さい。できるならこちらが先に指示しておいた方が良いかも知れない。」龍二は少しばかり言葉遣いを改め話している。元々荒い言葉を使うタイプではない。相手や状況に合わせていただけなのだ。「それから、今夜の出来事に関しては若い衆には口外しないようきつく言っておいて下さい。お宅としても伏せておきたい出来事でしょうから。」組長は龍二の言葉にいちいち頷き、納得顔をして聞いている。「わかった、そうしよう。おい!付き添っていった奴らに連絡しておけ。」と、組長の後ろに立っている手下に指示をする。幸恵が新しいグラスを持ってきたので、それに高級ブランデーを注ぎ、「さあ、遠慮しないでどんどんやってくれ。」と、ふたりに勧めた。龍二と立山は「どうも。」と頭を下げグラスに口をつけた。
「ところで、あれはどういうトリックかね?まさかわしが若いころテレビで観た心霊手術って言わないだろうな?」組長が龍二に訊く。「ははは、それに近いです。超能力によって、弾を抜き取ったんですよ。」暫く間ができた。皆が沈黙する。龍二が『あははっ』と笑う。それに釣られ組長が笑い出し、その後にみんなして大笑いとなった。「あ~そう?超能力者ねえ。あんたが?あはは~!」組長は、愉快そうに腹を抱えて一時大笑いとなった。「ところで、わしに何か頼み事があったようだが・・・?」と龍二の顔を見る。
「はい、3つほど。ひとつはこの立山と、あの子幸恵さんの仲を認めてやって頂きたい。」それを聞いた立山は、飛び上がるほど驚いて龍二を見た。カウンターから斑目も思わずこちらを見た。「近いうちに結婚します。祝福してやってください。」組長はちらっと斑目をみてから、「分かった!認めよう。」組長が認めたことに誰一人異存はない。「2つめ。今、俺もこいつも(立山の方を手で指し)無職なんです。こいつが結婚しても収入がないと生活できない。職が見つかるまでの間、使い走りでも構わないので、そちらで使って貰いたい。」じっと組長を見る。「そして、その先が斑目組でも構わないって、ことです。」組長はちょっと驚き、ひとりポツネンと止まり木に座っている斑目を見た。今の斑目は、いつもと違いオーラーが全く感じられずただの中年のおっさんのようだ。
「俺から言うのもなんですが・・、光男とやらも助かると思います。全て水に流してあげたらどうですか?」龍二の声が斑目にも聴こえているのか、怒っているようなべそを掻いている様な心中複雑な思いが顔に表れている。
組長は暫く無言で考えていたが、「あんたがそこまで言うなら。・・・じゃあ、こうしよう。わしはあの時のあんたの行動をみて、決断力・指揮・統率力・全てあの斑目より勝れていたと思った。あいつは組長として仕切るのにはまだまだ青い。年はあんたの方が若いようだが、あいつを色々助けてやってくれればこちらとしても何も言うことはない。そうだそれがいい。こちらから、頭を下げてお願いする。」そう言って、テーブルに両手を着き組長が深々と頭を下げた。
イメージ 1