takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

それぞれの過去・その6

「その頃俺は22歳だったから龍二さんはひとつ上の23歳。斑目は30歳を越えてたんじゃないかな?普通で考えりゃぁ、修羅場をくぐって凌いでいるあの組長や斑目などの組員からしてみれば、口を利く事さえも許さない一般庶民のただの青年。その彼に、たった一夜の数時間でわけなく仕切られてしまった。
鞍馬一族の者からしてみれば、彼らもまた並の人間で、その格の違いを見せ付けられた思いだった。でも、こんなちっぽけな俺の事を一番に想ってくれてて幸恵との仲を取り持ってくれたのが、すごく嬉しくてな・・・。あの後、俺は看板をあげたまだら組の構成員となって3年間仕えた。その間に式は挙げなかったが幸恵と所帯を持ち子供も産まれた。だけど、やはり俺はそこでも中途半端で、チンピラみたいなことしかできず、そんな自分が嫌になり龍二さんに断りをいれて組を抜け出したんだ。」そして今があると自嘲気味に立山が笑った。そして、泣くのをやめて一語一句聞き漏らすまいと立山の話に耳を傾けて聞いていたハヤテに「だけどな、ハヤテ君。あんたに教えられたよ。息子に堂々と父親であることを誇れるようにならなきゃいけないと。だから、あの日から真剣にハロー・ワークに通い、仕事を探しているだ。」と、照れ笑いした。それを聞きハヤテも赤く充血した目を細め、微笑みながら「そうなんですか。きっと今の立山さんなら良い就職口が見つかりますよ。だって、最初に駅で会った時と今とでは別人かと思うくらい顔付きが違ってますもん。あっ、えらそうな事言ってすみません。」話の内容が理解できない冴子と清志を置き去りにして、ふたりして声を上げて笑った。「だけど、立山さんの話を聞いて僕は間違っていたのかも知れないと思ったんです。清志君の研究所での話で、父のイメージは鬼そのものでした。だから、一触即発で攻撃してくる気がしたんです。話し合いなんか絶対できないと・・・。だけど、クラブでの父は理性的で冷静沈着。ときに豪胆でありながらも、人一倍思いやりもあるバランス感覚の優れた人物としての一面を見せています。これが本来の父の姿だと思えるんです。避けずに正面から向かい合って話すべきだったのかと、今更ながらそう思いました。」と、ハヤテは言う。だが、冴子と立山は異語同音にそれを否定した。それは火の中の栗を拾いに行くに等しいと。龍二のサイコキネシスは瞬時に発動する。見えない力で首を絞められたらそれで最期となる。後で悔やんでも遅いのだと。そう言われるとハヤテは黙るしかなかった。