takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

伊藤君の大誤算・その9

立山はシートを少し倒してぼんやり車外の景色を見ている。太陽の光で何もかもが白っぽく映っている。(働き口を早く見つけないとな・・・)
トントンとリヤ・ウインドゥを叩き、顔を向けると清志が覗き込んでいる。体を起し、少し開けて「開いてるから入れよ。」と、声をかけた。
後部のドアを開け、座席に座るなり、「冴子さんとハヤテ君はまだ来ないんですか?イベント会場に集合って言ってたのに、車で待つようにって携帯に掛かってきたんですよ。何か急いでいるようでしたけど。」「ああ、俺にも掛かってきた。何かあったな。」クーラーを少し強めに調整しながら立山が言う。
「何かって?あっ、そういえば立ち読みしていたら急に周りがザワつき出して、読書に集中できなくなったんです。なんか、人が宙を飛んだとか。なんかのアトラクションやってたのかな~?でも、そんなに騒ぐ事ないのに。たかが見世物くらいで、ねえ~?」詰まらなさそうに、清志が言う。
「人が飛んだ?そういって騒いでいたのか?あちゃww!ハヤテ君やっちまったんじゃないよな~!」立山が顔を顰めた。「ハヤテ君が何をやってしまったのですか?」不思議そうな顔で清志が言う。「宙を飛んだのはハヤテ君だということさ。」「えっ、まさか~、飛べるわけないじゃないですか~。立山さん、顔に似合わず面白いことも言うんですね?」プフッと、清志が笑う。「お前は、鞍馬一族のことを知らないからな~。父の龍二さんがサイコキネシスを使っているのをお前は、見たんだろ?彼にもあるんだよ、超能力が。ハヤテ君は生まれながらの風使いなんだよ。お前、いままでの俺たちの話聞いてて疑問に思わなかったのか?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。いや、時々、話の内容が理解できない時がありました。でも、僕が割り込んでどうのこうの言って、話の腰を折るのは止そうと、聞き流していたんですよ。ハヤテ君は風を自由に使えるというんですか?」「ああ、実際俺も彼の使う風に吹き飛ばされた経験があるから間違いはない。いや、吹き飛ばされたというより、風に包まれ運ばれたというべきかな?」「風に・・・運ばれた?ですか?」清志は、ふと、最近の自分も似た経験があると気づいた。「あっ!あの時の!・・・」命を絶とうと駅のホームから身を投げたときの事が思い出された。飛び込んだ時には気を失っていたが、何故か10メートル以上もある向こう側のホームに倒れていて、周りの客が口々に「風に吹き飛ばされたのか?」とか「目に見えない何かに運ばれてきたようだった。」とか、言ってたように思う。(じゃあ、あの時ハヤテ君は同じホームにいたのか!知らん顔しているけど、僕の命を救ってくれたのはハヤテ君だったんだ・・・)清志はジーンと胸が詰まって思わず涙ぐんでしまった。「何があったのかは、知らないし訊かないが、ハヤテ君は自ら風に乗って宙を飛ぶことも出来る筈だ。すでに物心もつかない赤ちゃんの時に飛んでいるんだから。赤ちゃんは邪心がない分、能力を発揮しやすいと俺はみるね。」立山が、バックミラー越しに清志の顔をみながら言った。「そうかもしれないですね。」清志も同じ意見なのか立山の目だけ写しているバックミラーを見て大きく頷いた。