takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

清志と秀也・その5

秀也は給水塔の土台のコンクリートに腰かけ、両手をあごの下で組んで、清志が近づいて来るのを見ている。清志は近づくにつれ、恐怖心が芽生えてきた。一歩一歩が、とても重い。自然に諤々と膝が震えてくる。自己暗示もどこかに飛んで行った。それでも、ようやく目の前まで行くと「用事ってなに?」と、言えた。秀也はそれには答えず「お前、なんか変だな。昨日、何かあったのか?」と訊いてきた。「・・・。」「俺の言いつけ、守ったのか?どうなんだよ。」周りに誰もいないので、秀也が声を荒げる。「いや、できなかった。」清志はそう言うのが精いっぱいだった。すぐに秀也がその言葉に反応した。「なに~?!できなかったで済むと思ってるのか?てめww!」そういって立ち上がり、みぞおちに強烈な正面蹴りを放った。清志は『グエ!』と発し,体をくの字に折って2,3歩後ずさる。「ごみがww!じゃあ、今日渡す薬はお預けだ。今日は必ず実行しろよ。」秀也は、用が済んだかの様に歩き出した。その背に向かって「もう、薬は要らない!昨日、病院に行って、診察してもらった。ちゃんとした薬も貰ってきたんだ。」と、清志は吐き出すように言った。ピタリと歩みを止めた秀也は、そのままの姿勢でしばらく動かなかった。そして「ほう・・・」と一声発し振り返った。その眼に残虐な炎がチロチロと燃えている。足早に清志の目の前に来て胸倉を鷲掴みにした。「なかなか、お利口さんだな~。だから、俺の云うことには従えられないってか?」そういいながら、ぐいぐいと力任せに押してきた。踏みとどまろうと足に力を入れようにも、体を半ば持ち上げられてる状態なので、踏ん張りが効かない。いつの間にか背中をフェンスに押し付けられていた。首をひねって後ろを見ると、もう後がなかった。(ここから落とされる?)恐怖が襲ってきて体が震えた。「やめてくれ!お、落ちるじゃないかww!」「ああ、落ちるだろうな。最近のお前は、おかしいと皆が言ってる。自殺したと思うだろうな。」秀也は半ば本気で落とそうかと思ったが、清志に渡したブルーの錠剤が気になった。それを取り返さなければならないと思った。清志は本当に落とされると思った。ポケットに入っている、木片を震える手で取り出し昨日習った通り、口に咥えて空に向かって吹いた。『ピ~、ヒョロロロ、ピー、ヒョロロww』秀也がなんだ?と云うようにそれをみて、取り上げようとした。清志は、ハヤテから預かった大事なこの笛だけは絶対に渡すまいと死に物狂いで阻止する。二人が揉み合っていると、上空から『ピww!ヒョロロロwww』と鳴き声とともに、立ち込めた雲を突き抜けて黒い何かが現れた。思わず二人は動作を止めて、それを観た。小さな点が次第に大きくなりはっきりと鳥だとわかってきた。「あわわわ・・・まさか、あの鳥は・・・。」先日、無人駅で襲われた恐怖と屈辱が瞬時に脳裏に蘇って、秀也は一目散に逃げようと走り出した。