takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブ#その40

「お兄ちゃん?」歩美が居間に入ってきた。部屋の空気が重いと感じ2人の顔を交互に見ながら「どうかしたの?」と訊いてきた。均は、「あ、いや・・・。どうして?なんか用かい?」歩美を見る。
「勉強、一区切り着いたから、夕飯の買い物に行って来ようと思って。冷蔵庫の食材、残り少ないから」均に言い、イブに笑顔を見せる。一応エアコンは壁に取り付けてあるが送風口は閉じられていて、扇風機が首を振っている。開け放たれた窓から薄曇の空が見えている。真夏の強い日差しはないものの、雨上がりの湿気を含んだ風が蒸し暑さを運んでくる。壁時計に目をやり「もう、3時か~」と頷く。「イブさん?何か食べたいものある?」歩美がイブに訊く。イブは一瞬戸惑い、ちらっと均を見た。均はどう応える?と見返したように思えた。「ごめんなさい。今日はお腹空いてないの。私の事は気にしないで」「いえ、そういうわけにいきません。お客さんを御もてなしするのは礼儀です」小学生でも6年生ともなるとしっかりした事を言う。ほんの少し考えていたイブが「わかったわ。じゃあ遠慮なくいただきます」均は驚いたように目を丸くした。「私も買い物に付き合ってもいい?」と歩美に微笑みかける。「いいよ~、一緒に行こう!・・・でもまだ洋服乾いてないんだよね」残念そうにそう言う。「大丈夫よ!10分ぐらい待てる?」「それは構わないけど・・・」何か方法があるのか?という様な表情でイブを見る。「ちょっと風呂場借りるわね」イブは立ち上がり居間から出て行った。「兄ちゃん、イブさんどうするつもりなんだろね?」均に訊く。均は「魔法でもかけるんじゃないの?」と、惚けている。テレビはプロ野球のデーゲーム中継に切り替わっていて、2人は何とはなしにそれを観ている。「お待たせしました。行きましょう」すっかり乾いた洋服に着替えて、帽子を被ったイブが笑顔で立っている。「あっ、ほんとだ~。イブさん、魔法使いみたい~」はしゃぎながら歩美が言って服に触ってくる。均は平然とした表情をして「気をつけて行ってくるんだよ」と2人に声を掛けた。2人の華やぐ声がドアの閉める音と共に消えた後、均はテレビを消して思案した。(どうするべきかな?彼女は悪事を考えていないと思えるが・・・。あの話の内容を思えば、彼女がロボットと知っているのは、今のところ彼女を造った博士という人物と俺だけだと思う。もし、彼女の要望を拒否し家から出せば、経験不足の彼女に狙いをつけ悪事に利用しようとする輩がでないとも限らない。やり方次第では地球存亡の危機に陥ることだって有り得るだろう。ここで俺が見ていれば少なくてもその点だけは避けられる。幸い俺の弟妹も彼女を気に入っているようだし。音信不通になった博士が現れるまで、ここに留まる事を受け入れようか?)それが良いのか悪いのかは分らない。均にとって余りにも常識を超え過ぎていて、並の人間である自分が判断するには重過ぎると思った。
(しかし・・・。え~い、なんとかなるだろう!暫く様子を観ることにするか~!)決まった!