takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブ#その33

玄関の掃除を終えて気だるそうに居間に入る。弘と歩美がコソコソ小声でなにか話している。
均は既にお笑いが終わってニュースをやっているテレビを、何気に観ながら胡坐を組んだ。それを待っていたかのように、2人が均に話しかけてきた。「兄ちゃん、あの人普通じゃないよ。服着たままシャワー浴びてたんだよ」歩美が均の背後を気にしながら言う。「ん?そうか~?」均は事も無げにそう応え、残っていた麦茶を飲み干す。(彼女だったらやりかねないさ。正体がわかる前に出て行ってもらおう。我が家が騒動に巻き込まれるのはごめんだ)「そうか~って兄ちゃん、驚くでしょう普通」と歩美。「兄ちゃん、ひょっとして彼女の知り合い?うちに来たの、偶然じゃなく兄ちゃんを訪ねて来たんじゃないの?」弘が鋭いことを言う。「・・・ああ?知らないよ、あんなロボ・・いや、人」
疑わしそうな目つきで2人が見る。(それにしても機械は水に弱いはず、大丈夫なんだろうか・・?)そんな事をいつのまにか考えている自分に気が付きプルプルと首を振った。「ちょっと、歩美~。お風呂に行って様子見てきてくれ。体、拭きもせず素っ裸で出てこられても困る」苦笑ながら均が言う。「あっ、そうだね!」タンスから急いで一番大きいバスタオルを選び出しとんで行った。「でも兄ちゃん、あの人美人だね~。俺、あんな美人いままで見たことないよ。絶対一般人じゃないよ」弘は目をキラキラさせて、均を見ながら同意を求めるように一つ頷いた。「そうだな、凄い美人だ。人間じゃないほどにな」(なにしろ人間じゃないんだから)「え?」弘が首をかしげた。その時、話し声が聴こえバスタオルを纏ったイブと、歩美が入ってきた。「兄ちゃん、セーフ」両手でジェスチャーして歩美が笑う。それをみてイブが首を捻り、兄弟が苦笑した。「とりあえず自己紹介します。俺は石田 均。彼が弟の弘で中学3年生。妹の歩美、小学6年生です」イブに向かってそう言った。少しの間、無言でいた(おそらく内容を人工頭脳がフル稼働で情報収集し理解するまでの間)イブが「私はイブといいます。よろしくお願いします」と、にこやかに言った。その発言になぜかホッとしながら均が笑顔をみせる。「外国の方ですか?」と歩美がいらない口を挟む。「外国?」また暫く黙る。「いえ、日本人です」「苗字は?」「・・・。ありません」「えwwww?」弟妹が仰け反る。「おいおい、人それぞれに事情ってものがあるんだから」と、均が嗜める。「お家はどちらですか?」歩美は好奇心いっぱいだ。「お家?・・・」コンピュータが小高い丘の博士の研究所を示す、が「ありません」ついに嘘をつくことを覚えた。「私は宿無しなんです。公園で暮らしていました」3人は顔を見合わせた。皆驚いている。「公園で寝泊りしていたのですか?ホームレスとして・・・」均もこれには驚いた。(あの公園で寝泊りしていたんだ)(おおwwっと!この人、いやイブは人じゃない。精神的、肉体的苦痛はないはず)ありえると思った。「どうぞ」歩美が麦茶を勧める。(機械にお茶飲ませてどうする。飲むわけないだろ)「ありがとう、いただきます」イブがおいしそうに飲むのを、(飲むのか!)均は驚きの表情で見ている。(これは凄い。完璧なロボットだな。一体誰が造ったのか。普通にいれば人と見分けがつかないはず)う~んと唸った。「兄ちゃんなに唸ってるの?じゃあイブさん、暫く家にいれば?そのうち仕事探してさ、お金ができたらアパートにでも住みゃあいい」弘がにこやかに言う。「ちょっとまて弘!うちはギリギリの生活してるんだぞ。食事代だけでもままならないんだ。無理だそんなの」「食事はいらないです。私も働きます。ここにおいて下さい」イブが頭を下げた。「食事はいらないって、おもしろ~いww」歩美が笑う。イブもつられて笑う。「こら!歩美」弘が年上の違いをみせる。(やはりな)と均は思う。「じゃあ兎に角、今日はここに泊まって明日ちゃんと話し合おう。見ての通りこんな小さな家だから4人生活はきつい」「私は、屋根の上でも、裏庭でも構いません」とイブ。「屋根の上~?おもしろ~い!」また歩美が大笑いをし、イブが笑った。