takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブ#その32

イブと歩美が風呂場に行く。古い建屋だが一応シャワーがあり、歩美は使い方をイブに教えている。「操作の仕方わかる?」「いえ、解かりません」「そう?色々なタイプあるからね。」1から説明をするのだが、操作方法と云うよりボタンひとつレバーひとつに初物を見る様な仕草をする。(この人、シャワー浴びた事ないのかな~?)有りえない思いで歩美はちらちらイブの表情を伺っている。「で、ここをひねるとお湯が出るの。」実際に出して見せる。わかった?と云うようにイブをみる。「・・・。」なんのリアクションもない。「それで、どうするのですか?」イブが訊く。(どうするって、体を洗うに決まってるじゃん)喉元まで言葉に出かけたのを抑えて「このソープをブラシに付けて体を洗い、このシャンプーで髪を洗うの。洗った後は体に泡が残らないようお湯で流し落とさなきゃだめよ。」まるで2、3歳児に教えているような錯覚に陥る。「・・・なるほど。わかりました。」歩美はイブの表情をみて、ホッとひとつタメ息を吐き風呂場から出てきた。「あっ!」思い出したように風呂場に戻り「服はちゃんと脱いで・・・」案の定服を着たまま浴びていた。均は シートを片付けて、玄関のあちらこちらに散らばって落ちている砂をほうきで掃きながら、今日の日の出来事のあれこれを思い出していた。貧乏生活は少しづつ慣れてはきたが、今日の別れで改めて落ちてしまった地位を実感させられた。本当のところ、こういう成り行きになる事は自分で分っていた。逆の立場なら自分でも彼らの様に考えるだろうと思う。(もう、自分の夢は追うまい。俺は、弘や歩美を世間に引け目を感じさせないで成人させる為だけに、働き続けて生きていこう)妙にしんみりしてしまった自分を奮い立たせるように箒を片付けた後、大きく深呼吸して、「よし!」とコブシに力を込めた。