takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

祖父の残した葛籠(つづら)・その1

いつの間にか太陽は西に傾いて茜空となっていた。「何かあったの?」と、好奇心で目がぎらついている立山に、冴子が事の成り行きを短くまとめて話して聞かせた。
立山は「へー!」とか「あ~そう!」とか合いの手を入れながら、やけに楽しそうだ。「・・・っとまあ、こういうことだったのよ。」冴子がやれやれ疲れたわと言って吐息をひとつ吐く。
「あはは~、それは大変だったね~」「笑い事じゃないわよ~、ああいう場所では、まるちゃんひとりにしておくと何するか分かんないから、目が離せないと思ったわよー」ハヤテは、うへっと首を竦めながら、掌に載せた秀吉の頭を撫でている。「でもさ~、惜しいことしたよな~、俺がその場にいたらマネージメント引き受けたのにさ~。契約料はこちらの言い値だったんだろう?億は無理でも数千万の話はできた。なあ疾風丸君、あんただって悪い気はしなかったんじゃないか?」いきなり話を振られたハヤテは「えっ?・・・まあ、僕は別に受けても・・・」「まるちゃん!何言ってるの、あなたの能力はそんな処で使う為にあるんじゃないのよ!」喋りかけたハヤテの声に、冴子の怒声が被さってきた。伸ばしかけた首がまた縮んだ。横に座っている清志がまるで亀のようだと、面白がった。「それから、まるちゃん?その後ろ髪、うちへ帰ったら切ってあげるからね。あそこのデパートにカットの店も入っていたけど、こういう事態になっちゃったから。心配しないで、私、結構上手いんだから。」「あ、はい。お願いします・・・」片手を後ろの束ねた長い髪に持っていき、撫でている。「山では、じいちゃんが時折切ってくれてたんだ。」言葉少なにそう言って隣の坊主頭の清志に笑いかけた。清志には、その眼が少し寂しげに映った気がした。