takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

清志と秀也・その2

清志は以前の体調に戻った喜びを噛みしめながら学校に向かっていたが、それと同時に大きな難問が待ち受けていることが分かっているから、弱気にならないよう自己暗示をかけ続けた。(秀也なんか怖くない。同い年じゃないか。負けない、負けるもんか!)だが、あの体格と腕力では、いざとなったらとても太刀打ちできない。もしかしたら、大怪我を負わされるかも知れない。でも、と清志は思った。(僕は一度死んだ身なんだ。怪我を怖がるな。それに、今日は助っ人を頼んであるんだから)昨日の帰りの車の中で、皆で話し合ったことを思い出していた。「清志君、明日は例の彼から薬を受け取るんでしょ?」と、冴子が助手席から後部座席の清志に声を掛けてきた。「はい、貰っていた調整剤は松本先生に渡した1錠が最後でした。明日、学校か、それとも放課後にコンタクトをとって来る筈です。その時、僕に渡した別の錠剤を誰かに飲ませたかも訊いてくる筈です。どうしましょうか?」しばらく何事か冴子は考えているようだったが、「清志君、あんた嘘つくの苦手でしょ?本当なら彼を安心させて隙をつくるのが得策だけど、下手な嘘はバレた場合逆効果になりかねないからね。」「はあ・・・僕はそういう所、苦手ですから。」清志は正直に言った。「病院に行ったと正直に言っちゃいなさい。病院でもらった薬が効くか効かないかは明日にならなきゃ分からないけど、マインドコントロールは解けたようだし。それならば、彼からすれば、あなたの利用価値は無いに等しいんだから。」「そうなります・・・か?」「ただ、麗美に飲まそうとした錠剤をどうしたか訊いてくるでしょうね?あれは成分分析の為、松本先生に渡しちゃったからね~」「秀也は当然返せと迫ってくるでしょうね。」と、清志。「失くしたと誤魔化すしかないだろうけど、相手は絶対納得しないでしょうね。」
「でも、そう言うしかない。それで通すしかないですよね。」「揉めると、やばいわね。」と、冴子。それを聴いていたハヤテが「僕も学校に行こうか?」と提案する。冴子が、「う~ん、マルちゃんでは目立つかな~?学校側から、不審者扱いされるかも。」冴子に言われて、ハヤテは黙り込む。すると、冴子が閃いたように体をひねってハヤテに顔を向け「いるじゃない!誰にも怪しまれず、自然の風景に溶け込み、いざとなったら恐い存在が!」「あっ!そうだね、呼び戻しましょう。立山さん、すみませんがもう一度、あの喫茶店付近まで戻ってくれませんか?」ハヤテが、身を乗り出して運転している立山に声を掛ける。「オーケー!信長っていう友達に会いに行くんだな?」「当たり~!」「あ~、なるほど~!」と清志が言い、車内は笑い声で満たされた。清志は空を見上げた。今日は空いっぱいに灰色の雲が覆っている。(まっ、先々の事は分からない。成り行き任せでいくとしようか)清志は目の前に近づいてきた校舎の玄関口に向かって歩き続けた。ポケットに手を突っ込み指先に触れた小さな木片を確認しながら。