takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

伊藤君の大誤算・その6

「やばいことになっちまったなww」2Fの通路をひた走りながら、目を皿の様にして冴子を探すハヤテ。
ふと、目の端に何かが引っかかった。急停止し、よく視ると婦人服売り場の柱の影からニョキッと腕が出て手招きしている。
(もしや、あれは・・・!)ハヤテは柱の影に近づいた。やはり、冴子だった。姿勢を屈め「「まるちゃん、ここに隠れて!早く!」と、小声で招く。
「冴子さん、ごめんなさいww。やってしまいましたww」「騒がしいので、私も覗きに行ってたのよ。こうなる予感がしたから、先回りしてここであなたが来るのを待ち構えていたの!済んだ事は仕方ないわ。とにかくこの店の外に出なくちゃね。摑まったら、そう簡単には帰してくれないわよ。」冴子は黒い革製のバッグから何かを取り出した。
「はい、これ!両耳に嵌めるのよ。」不思議そうに渡された物を視ているハヤテの動作がもどかしいと、取り上げて冴子が両耳に荒々しく耳栓を突っ込んだ。冴子はハヤテがここに来るまでに、既に立山と清志に店外に出て車の中で待つように電話で指示を送っていた。
(さあ、声が嗄れるまで歌い続けるとするか!)店外に出るだけなら、たいして時間は掛からない。だが、係員が事務所に持って行った荷物を取り戻さなければならない。そのまま帰れば、後々まで禍根を残すことになる。意地でも取り戻さなければと冴子は気合を入れた。


一方、伊藤は事務所に入り、店長に事の顛末を報告した。「店長、どうします?おそらく彼はこの荷物を取りに来ます。いや、その前に警察に通報するのは行き過ぎとしても店員と警備員を総動員させて、彼を捕まえましょうよ。彼がどうやって『飛んだ』のか、細密に聴きたいと思いませんか?」「だけど、伊藤君。その子は当店に買い物に来たお客さんだよ?現に、こんなに沢山の買い物をしてくれた。」店長は、店のロゴの入った大袋の山を指してそう言った。
「ですが彼は店内にペットを持ち込み、そして今だに店内に潜伏しています。」と、反論する。「潜伏って、そんな・・・。過激すぎだよ、君は。」苦りきった表情で店長がたしなめる。店長の里中は面倒を嫌う。本来なら里中は今頃こんな所でうろついている人間ではないのだ。某有名大卒のエリートなのだが、気が小さく、おとなしい性格が災いして、同期達より出遅れている。この店の店長も一年限定の体験コースで、その後に遅まきながら本社での幹部候補争いに加わらなくてはならない。こんなイザコザで経歴に傷が付かないか、それだけが心配なのだ。
「ですが店長、これは当店が全国に名を轟かす良い機会になりませんか?多分彼が飛んだ様子が、監視カメラに残っている筈です。その上で、本人が我々と話している様子をセットにしてマスコミに持ち込めば、彼と私達、そして当然この店も、一躍時の人時の店となりますよ。そうなれば、黙っていても人は押し寄せてくる。繁盛間違いなしと僕は思いますけどね。」伊藤は、腰が引けている店長に押し捲った。「そ、そうだな、そういう考え方もあるか。」里中は、いつもそうだ。押されたら、最後は自分の主張を通しきれない。そんな性格を部下に見透かされている。伊藤は、(よし!)と、行動に移った。