takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

伊藤君の大誤算・その2

軽く昼食を摂った後4人は車に乗って郊外の大型ショッピングセンターに向かった。ハヤテの身の回りの物を買うためだ。
「清志君、本当に帰らなくてもいいの?あなたを送ってから出直してもいいのよ。」と、冴子が言う。
「いえ、いいんです。たまには僕も楽しみたいんです。一緒に連れって行ってください。今回のことで考えを変えたんです。成績を上げる為だけの学生生活なんて、決して将来の自分にプラスにならないと。いろんな人と出会い、行動し、楽しむことで、小さく狭い僕の心の殻を破ってみたい。そうすれば、いままで見たこともない面白いできごとや興味の湧くものに出会える気がします。『書を捨てよ、町に出よう』と寺山修二さんも言ってますもんね。」そういって笑い、「だからと言って、勉強しないわけではないですよ。勉強する時には、無駄に時間を掛けず集中力を高めて取り掛かろうと決めたんです。」と、照れ笑いした。冴子は「そ~えらいわね~、頑張って!」と言い、運転席からは立山が「そーそー、この世は学歴社会だからな~。オジサンみたいになったら、泣きだぞ。」と言って声をあげて笑ったので、皆もつられて大笑いとなった。「ところで冴子さん、あんたの能力の『眠り姫』・・・じゃなく『眠らせ姫』は健在なの?」と、唐突に訊いた。「冴子さんを思い出すたびに結婚式のパニックを思い出す。これは俺にとって対になってるんだ。もし何時かあう事になったら、この話をしてみたいと思ってたんだよ。」ちらちらと助手席の冴子を見ながら言う。「ええ~健在よ、いつでも使えるわ。だけど時と場所を考えなくちゃ、大変なことになるから余程気をつけなくちゃ。」「そういえば、この子達も私の歌声の餌食になったのよね~」ふふふと笑う。
「えっ?どういうことですか?」と、ハヤテ。立山が「この人が感情を込めてオペラを歌うと、耳に届いた瞬間から否応なく眠ってしまうんだよ。あんたの両親の結婚披露宴で歌ったものだから、全員その場で眠ってしまい大変だったんだから。」と、愉快そうに大笑いする。
しばらく何ごとか考えていたハヤテが「思い出しました。成る程、それで・・・。あっ!あの夢。あの夢は本当の出来事を再現していたのかも。あの時、母はベランダで洗濯物を干し、僕が部屋から出て、その近くに行って。・・・それから、2匹の蝶々を追いかけました。それから、追いかけるのに夢中になり、僕は宙に浮かんで、ベランダの外に・・・。そして、僕に気付いた母が・・・。」そこからは言葉にならなかったが、車内の全員が全て飲み込めたという顔付きで沈黙している。冴子が「マルちゃん、そういうことだったのね?でも、マルちゃんは決して悪くない。仕方のない出来事だったのよ。」と優しく言うと、ハヤテのすすり泣く声がきこえて来た。