takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブ#その43

夕食後、弘は早朝と云うか深夜と云うか、午前2時に起きて新聞配達所に出勤しなければならないので、風呂に入り寝るために早々と自分の部屋に戻った。他の3人は台所で雑談に講じている。「弘さん、頑張っているんですね。」イブが言うと「ああ、随分助けてもらってる。」と、均が今しがた出て行ったガラス戸に目をやりながら、しみじみと応える。「今はね、ほら、夏休みだからさ~、配達から戻ればグースカピーだよ。」歩美が笑いながら言う。「私が就職できたら弘さんは学業に専念させてやってくれませんか?」イブがそう提案すると2人は黙ってイブを見た。イブがロボットと知らない歩美は、夕食時に均が『給料で負けて大黒柱の座を奪われかねん』発言はあの時勢いで笑ってしまったけど、兄は勘違いしていると思った。年頃の女性なら欲しいものは無限にあるし、今後の生活の為に貯金もしたいだろうし。それを縁もゆかりもない自分達の為にお金をつくる事は、常識的に考えてもおかしいと思った。(均兄ちゃんはイブさんと結婚するつもりなんだろうか?それなら辻褄が合うけど・・・)歩美はどう応えるか均の顔を視ている。均は、イブが普通の人なら断っていた。が、欲のない機械に却って配慮は意味のないことだと思い、ここは有り難く厚意に甘えようと思った。「イブさん、ありがとう。あなたの提案に甘えさせていただきます。」そういって均が深々と頭を下げた。「えー?」と驚いて歩美が批難の目を向ける。それを制するようにイブが笑顔で「いいのよ歩美ちゃん、提案受けてもらって本当に嬉しいです。これで私も石田家の一員になれそうですね。」「いや・・・それと、これとは・・・」均は、しどろもどろでうろたえた。「さあ明日は海水浴ですか。歩美ちゃん?早起きして弁当作るならお手伝いしますから。」イブが微笑みながら立ち上がり、食器を片付けだした。歩美も頭を切り替えたのか「イブさん水着持ってるの?」と言いながら立ち上がる。「ありますよ~、スウエット・スーツですが。」と応えると、均が、「あー、あれはまずいよ~、ダメダメ!」と慌てた。「あれ?兄ちゃん見た事あるの?」と歩美が首を傾げ均を見た。瞬く間に茹蛸のような顔色になってしまった均が額に大粒の汗をかき「と、とにかく・・・。明日はイブさんは泳がない方がよいのでは・・・」と困りきった顔でイブに向かって言い、「今夜は少し狭いけど歩美の部屋で休んでもらえるかな?」そう言いながら、そそくさと席を立つと台所から出て行った。