takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

2022年3月のブログ記事

  • 選ばれし救世主・その4

    車中での母の話の内容に皆は驚きを隠せなかった。が、その一語一句を聞き漏らすまいと皆は押し黙っている。その内容とは・・・ 今から三百年程前の深夜の事。継正の眠っている枕元に何者かが立っていた。継正は剣豪である。その彼にして気衝く事のできない侵入者であった。 (ツグマサ・・・)耳から入ってくる声ではな... 続きをみる

  • 選ばれし救世主・その3

    美鞘の住む埼玉と母の実家である群馬県とは隣県ではあるけれど車で行くには1時間以上かかる。 母の継子は美鞘と代わり助手席に座った。そして正男にアドバイスを受けながら、通販で買った小さなカーナビに行き先をセットした。父の正男は、継子の実家には2度だけしか行った事がなかった。1度目は結婚を認めてもらうこ... 続きをみる

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  • 選ばれし救世主・その2

    車を脇に寄せハザードランプを点けながら憔悴しきった父がいる。蹴られたところが痛むのか、顔を顰めて体のあちらこちらを摩っている。だが大した怪我でもないであろう、 向こうは暴力のプロなのだ。マル暴がうるさくなってる昨今、傷跡を残すようなへまはしない。彼らは精神的ダメージを与える為一芝居うったのだ。だか... 続きをみる

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  • 選ばれし救世主・その1

    未無来がチンピラ達と車に乗り研究所に向かう途中でのこと。 田舎の国道を軽乗用車が走っている。車内は陽気な笑い声であふれている。 「だからな、お父さん耐えきれなくなって部長にこういってやったんだよ 『ダレジャ?性もないダジャレ言ってんの。寒すぎてギャグクリ腰になっちまったよ』ってな。」一瞬、車内が静... 続きをみる

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  • 未無来統一という男・その6

    未無来所長は、組の事務所に出入を許され、暫くは退屈しない日々を於くっていたが、何時までもそうしている訳にはいかないと思った。そして朝方研究所に戻る途中、若い下っ端がささいな事故を起こしてしまったのだ。後部座席で(やれやれ・・・)と事が収まるのを待っていたが思わぬ事態になったらしい。一人の少女に暴力... 続きをみる

  • 清志が消えた・その11

    「ふあwwぁ」突然龍二が大あくびをしたので、張り詰めていた空気が一瞬にして消え去った。 「もういい、やめろ。しようもない。この事務所や俺達を汚い血で染めるつもりか?馬鹿ばっかりだな、全く」「お前、俊介って言うのか?お前だけだな、まともな考え方しているのは。あそこにいる調子もんの教育もしてやれよ」顎... 続きをみる

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  • 清志が消えた・その10

    事務所内が立山を取り囲んで騒然としている中、龍二だけはあくびを嚙み殺しながらソファーに座っている。それは殺気立った周囲の中で、異様に映った。まるで同じ場所に居ながら、彼だけ別世界に存在しているかのような・・・。誰もいないソファーに、座っている龍二を切り取ってきて張り付けた合成写真のような、完成した... 続きをみる

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  • 未無来統一という男・その5

    勝ち誇ったように退室した加藤の残像でも見ているのか、乾は暫くの間、身動ぎもせず鬼の形相でソファーを睨みつけていた。「おのれ~出来ぞこ無いが~偉そうにー!あいつだけは絶対に許さんww!」思わず声に出してしまう程、激昂していた。 が、数十秒後 さすが東大出の超エリートは冷静さを取り戻していた。最近使う... 続きをみる

  • 未無来統一という男・その4

    厚労省のトップに居座ってるその男は、加藤と同期であった。 不器用な彼とは正反対に、あらゆる汚い手を使いまくって最高速で 今の地位に登りつめた男である。同期ゆえに、互いの胸の奥で 微妙に意識する存在であった。片や優越感と蔑みであり、片や誰よりも遠避けたい世界で最も嫌な男なのである。その彼から呼び出さ... 続きをみる

  • 未無来統一という男・その3

    帰宅途中の加藤は胸を張り、颯爽と歩いていた。自分は森羅万象全てから祝福されているとの心持ちであった。(無敵だ、あのエキスを飲んだ時から私は無敵になったのだ。あふれ出るエネルギーがそれを実証している。)自然に笑みがこぼれ、思わず高笑いしたい気分だ。 普通なら朝帰りなどしたら、疲れ切ってとても正常な行... 続きをみる

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  • 未無来統一という男・その2

    この章は18歳未満お断りです^^;小説の流れ上、どうしても必要だと判断し、少しだけエロい筋書きとなっておりますので><;。よいこのみなさんや真面目な方々は、す~っと流し読みしていってくださいね^^; そのドリンクを飲んだ瞬間、言い様のない強烈な生臭さと『ドロリ』とした粘リ気のある液を喉元が本能的に... 続きをみる

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  • 未無来統一という男・その1

    (あ~、ここだ、ここだ。)地図らしき物を手にし、ようやくたどり着いたと云わんばかりに『ふーっ!』とひとつタメ息をついて加藤は玄関前に立った。彼は厚生労働省の外回りで、申請登録を受けてここに訪れたのだった。ビルのテナントに金看板で「医療研究所 所長 未無来 統一」(みむら・・ふざけた苗字。偽名だなこ... 続きをみる

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  • イブ#その56

    薄汚れたハーフコートの男の真上でホバリングしているイーグル・アイからの映像は、イブの予想を裏切るものだった。 明らかに怪しいと睨んだその男の行動は、普通客以上に正常だった。なぜなら、商品棚から遠く離れた通路に佇んで殆ど移動しないからだ。 買い物客が右往左往している中、その男だけが静止しているのはあ... 続きをみる

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  • 清志が消えた・その9

    「雅次兄さん・・・。あっ、危ないじゃないっすか!怪我すっから、そんなもん収めてください」立山から3,4メートル離れたところで、真っ青な顔色をして、震えながらドスを構えているのは、立山より2つ年上の雅次だった。荒っぽい連中の中にあって、普段はとても大人しく、性格的に似ている所がある立山とは、割と気が... 続きをみる

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  • 清志が消えた・その8

    「警察に電話しますわ。まだら組に誘拐されたと」立山はスッとポケットから携帯を取り出しボタンを押そうとした。「ちょっと待てや、こらww!」組長が乗り出して押そうとした方の腕を掴んだ。立山は組長を睨みつけながら「今すぐ清志を解放して下さい。連れて帰りますから」声に怒気を孕んで叫ぶように立山が言った。組... 続きをみる

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  • 清志が消えた・その7

    班目が立山の向かい側のソファーにドカリと座り、その隣に伏し目がちな龍二が静かにゆっくりと座った。ソファーの脇に立っている俊介に顎をしゃくって(引っ込んでろ)と合図を送る。俊介は一礼して退いた。班目はイラついている様子を隠そうともせず、テーブルに備え付けられているシガレット・ケースから、タバコを一本... 続きをみる

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  • イブ#その55

    偵察機よろしく張り切って飛んで行ったビートルであったが、イブの人工頭脳を介して映し出された映像は、前後、左右、上下を目まぐるしく移動し心臓部の赤い鉱石は焦った。そこで原因究明をコンピューターに指示したところパーツが1個足りなかったと解明し急遽戻ってくるようにビートルに命じた。やはり制作者の博士がい... 続きをみる

  • イブ#その54

    イブは機械として見れば他に類を観ない最高傑作品だが、ヒトとしての判断能力にまだまだ経験不足であり二進法的思考が勝っているから、この場合『良いか悪いか』のふたつしか選択枝がなく『悪い』と人工頭脳がジャッジすれば『良い』状態にするべき対策を図って行動を起すようにできている。ファジーという概念が今はまだ... 続きをみる

  • イブ#その53

    万引きに効果的な方法として警備員の巡回と監視カメラの設置及び増設がある。警備員の制服は警察のそれと酷似しているので犯行に及ぶ輩には絶大な効果がある。これは、捕まえるのを目的とせず抑止効果を発揮させる為。だが同時に善良な顧客に威圧感を与えてしまう恐れもある。だから、頻繁な巡回は避けている。それに対し... 続きをみる

  • イブ#その52

    イブの勤めるスーパーは『あけぼし』チェーン葉舞店。均一家の借家も葉舞町に入っている。 兼業農家や、少し離れた場所にある新興住宅地からの客が主に来店し、駅の反対側に建っているマンションからは余り来ない。踏切がネックとなり大回りしなくてはならず、それならと少し離れた郊外の大型スーパーに車で出掛けるから... 続きをみる

  • イブ#その51

    午前10時前、白衣を着た博士は車椅子を操作して正面玄関前に来た。自動ドアを抜けた瞬間、自然光に耐えられず立ち眩みを覚え、真っ白な景色が本来の色を取り戻すまで十数秒を要した。博士は、目が慣れて少し霞のかかった空を見上げ、深呼吸とも嘆息ともつかない息をひとつ吐いた。 大型自動車の低いエンジン音に気付き... 続きをみる

  • 清志が消えた・その6

    本革のシートに立山は浅く座った。周りは異様な程、静まっている。顔見知りの面々がちょっかい掛けてくるかと思ったがそれもない。究極の居心地の悪さだ。俊介が、組長と龍二のいる部屋に入って10分程経っている。中で何を話しているのか、なかなか出てこない。立山は、イラついてくる気持ちを抑えながら待つ。ようやく... 続きをみる

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  • 清志が消えた・その5

    立山の妻、幸恵は立山と知り合う以前、班目の女だった。班目が組長になる前の話。 JAに勤めていた頃、仲間たちと飲み歩いた時に何気なく入った店で幸恵と出会い、見染めてしまってから、店に頻繁に通うようになった。幸恵も立山の事を憎からず思うようになり、やがてお互いに愛情を抱くようになったが、幸恵に近着こう... 続きをみる

  • 清志が消えた・その4

    次の日の午前10時過ぎ、立山はまだら組が所有するビルの地下駐車場の中に車を停め、その中でシートを倒してタバコを吸っていた。煙が籠るので、両方のサイドウインドウを半分開け、外気を取り込んでいる。この駐車場に入る前に、「喫茶まったり」に組長と龍二がいないか車内から確認したが、いつもの席に人影がなかった... 続きをみる

  • 清志が消えた・その3

    立山がいつになく深刻な顔で、何か考えている。沈黙に耐えられずに、冴子が「コーヒーでも入れるわ」と立ち上がる。立山は表情を変えずに「うん」と返事した。(明日はハヤテ君を迎えに行く日だ。ハヤテ君は修行の成果を出せたんだろうか?)台所の方から、コーヒー豆をミルで砕く音がする。 (気を使わなくていいのに。... 続きをみる

  • 清志が消えた・その2

    山の日暮れは早い。午後4時半を過ぎると、もう辺りは薄暗くなってきて(今日はこれくらいにしておこう)と天狗の面を外し額の汗をぬぐった。 原っぱから家に向かう道すがら、ハヤテは疲れ切った足取りでトボトボと歩いてはいるが気持ちは充実していた。何度も崖の上からダイビングを繰り返しているうちに、段々と翼を動... 続きをみる

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  • 清志が消えた・その1

    ハヤテは翼を羽ばたかせた感覚を忘れないうちにと、腰かけていた岩から立ち上がった。「よし、やるかー!」と声に出して、気合を入れた。 先ほどのダイビングで、心身とも、取り分け精神的疲労は激しかっただろうが、そこは15歳という若さがものをいう。たった10分程で急速に回復できた。 多分、背中の羽根が動かせ... 続きをみる

  • 山籠もり・その16

    腰かけるのに丁度よい岩が目に入った。ハヤテは安堵のため息を吐きながらそこに腰を下ろした。 なぜ飛べたのか?なぜ翼を羽ばたかせることができたのかが分からない。決死の覚悟からの火事場の底力なのか。わからない・・・。今一度、ダイビングした後の自己分析をしてみようと頭の中で再現した。すると疑問に思うことが... 続きをみる

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  • 山籠もり・その15

    ハヤテが地面を蹴って幅跳びでもするように空中に身を投げた。一瞬浮いたように感じたが、あっという間に落下し始めた。 飛び込む前にシュミレーションした通り、うつむせになり両手両足を大きく広げ、空気抵抗を最大限受ける姿勢をとった。 それでも自然の中では石ころや木の葉と何ら変わりはない。ただただ落ちていく... 続きをみる

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  • 山籠もり・その14

    ハヤテはしゃがみ込んだまま、いろんなことを思い出していた。じいちゃんとの生活や、森の仲間たちとの楽しかった日々が次から次へと頭の中に浮かんでは消えていく。今思うと、一本歯下駄をじいちゃんに与えられ傷だらけになっていた苦痛の日々も、あれはあれで結構有意義に過ごしていたんだなあと振り返る。そんな事を思... 続きをみる

  • 山籠もり・その13

    (僕は宙を飛ぶとき風を起こす。その風は僕の全身を包み込み、目標にまで運ぶ。あらかじめ目で目標を確認し、そこまで行こうと意識する。すると、一直線に風が運んでくれる。だが、ひょっとすると持っているチカラの使い方を、それしか知らないからやっていないだけなのかもしれない。飛行中に念じて風を変化させ、自在に... 続きをみる

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  • 山籠もり・その12

    次の日の朝、ハヤテは草原に来ていた。昨日とはうって変わって雲一つない快晴だった。 「う~ん!いい天気だ!」深呼吸をひとつし、青空を見上げている。昨夜、目を瞑りながら考えた案を実行しようと、既に翼を背負って立っている。この草原を抜けると絶壁がある。子供の頃は、じいちゃんに絶対に近寄ってはならないと事... 続きをみる

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  • 山籠もり・その11

    立山が帰った後も、何をするではなく縁側に腰かけて立ちこめている霧を観ていた。 霧は、やがて水滴となりポツリポツリと小降りとなって、そのうちザーザーと縁側を濡らす程の 本降りとなった。ハヤテは雨に濡れた下駄を縁側のふちを片腕で支え、もう片方の腕を伸ばして鼻緒を掴むと引き上げた。座敷を通り抜け玄関に来... 続きをみる

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  • 山籠もり・その10

    山籠もりして三日が経った。今日は今にも雨が降りそうな天気だ。湿気で衣服が肌に纏り付いてくるような不快感。まだ午前10時頃なのに日が遮られて薄暗い。漂う濃霧によって4,5メートル先が見えない。麓の民家の方から見れば、山に雲が垂れ下がっているように見えるだろう。 幾らなんでも、こんな日に飛ぶことはでき... 続きをみる

  • 山籠もり・その9

    ハヤテは、その場で膝を曲げ腰を少し落として軽く飛び上がった。すると、ふわりと4,5メートルの高さまで浮かび元の位置に着地した。まるでハヤテの周りだけ重力がなくなったようだ。立山は、ふと、古い記憶の中にある映像を思い浮かべた。それはアポロ11号が月に到着し、宇宙服を着たアームストロング船長が月面を歩... 続きをみる

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  • 山籠もり・その8

    スープを極わずかに残してカップを灰皿代わりに使っていた立山が、短くなったタバコをそこに捨てると小さく『ジュッ』と音がした。消えたのを見届けながら蓋を閉じると、ハヤテのそばに来て、また胡坐をかいた。断るわけでもなく羽根を触ったり布で編みこんだ背負子や肩ベルトを撫でたりしていたが「つくづく偉大な人だっ... 続きをみる

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  • 山籠もり・その7

    ラーメンのツユを飲み干して「あ-美味かった!ごちそうさん。」と言ってハヤテは立ち上がった。 立山は既に食べ終わって、食後の一服をしている。本数は一日10本に満たないが、無職の今になっても辞められない。これも家族に嫌われる原因のひとつになっているのだが、分かっていながら踏ん切りがつかないでいる。ハヤ... 続きをみる

  • 山籠もり・その6

    鞍馬家に着いた時、時刻は既に正午近くになっていた。人や車の行き来がないのか 道らしきものはあるのだが、雑草がかなり伸びていて、それがバンパーやシャーシーを擦り車内にかなり大きな音を響かせた。登坂の上にこの雑草なので、2Dに切り替えながら、じわじわと進むほかなかった。しかし家の庭先に着けば雑草は生え... 続きをみる

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  • 山籠もり・その5

    食料を大袋で二袋分買い込み、それとは別に立山が清涼飲料水のペットボトルを3本と牛乳のパック3本を入れた袋をトランクの中に納め、マルサンを出た。 立山は、冴子からお金を預かっていたが、飲み物は自腹で払い、ハヤテに「これは俺のおごりだ。」と言って笑った。売り場でハヤテがかごに入れた物を立山がチェックし... 続きをみる

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  • 山籠もり・その4

    「何だい、お前は~!」ハヤテの表情から好まざる相手だと察した立山が、ハヤテを庇うように前に出た。元はヤクザだから、凄みを効かせると、さすがに伊藤は退いた。周りにいた買い物客たちも驚いて、遠巻きに様子を観ている。 「あっ!いやいやそうじゃなくて・・・」伊藤は少し言い淀み、ハヤテに向かって話を切り出し... 続きをみる

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  • 山籠もり・その3

    竹で織り込んだ葛籠をハヤテが抱かえてきた。車の脇に立っていた立山が「面白そうな物を持って行くんだなあ。」と、好奇心を露わにした。「向こうに着いたら見せますよ。」と、ハヤテの目が笑っている。 「後部座席に載るようだな。」とドアを開けて立山が受け取り積み込んだ。 ふたりは車に乗り込みシートベルトを着け... 続きをみる

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  • 山籠もり・その2

    夕食が終わり、ハヤテと瑠美と秀吉は居間でテレビを観ている。まだ6時過ぎだから、ニュースとか報道番組ばかりだ。瑠美は7時からの歌謡番組を楽しみにしている。AKBやEXILEもいいけど、今日はmiwaちゃんが出演するという。瑠美はmiwaが大好きなのだ。シンガーソングライターとしてデビューし、小栗旬主... 続きをみる

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  • イブ#その47

    バッグを受け取ったイブはいつもの(これしかない)白い夏用のドレスを取り出し、目の前にかざした。均は何をするのかと、そのかざしたドレスを漠然と見ている。一瞬イブが体勢を整え、構えたようにみえた。刹那、イブを包むように旋風が起こり砂煙が舞った。均は思わず腕で顔を庇った。その間一秒にも満たない。「さあ、... 続きをみる

  • イブ#その50

    博士が記憶を取り戻したいと切望する中で、松本先生がふと洩らしたひと言が気になっていた。救急車で運ばれた時、衣服は血に染まっていて廃棄したのだがそれが白衣の様だったと。白衣を着る職業はそう多くない。病院関係、介護関係、薬剤関係、科学、化学研究者、等等。調理師も白衣を着るがそれではない様だったと。これ... 続きをみる

  • イブ#その49

    事故で記憶をなくし入院してから2週間。工学博士の所典夫はようやく折れた足の骨もギブスで固定され(それまでは足首にボルトを通してワイヤーでぶら下げ、折れた骨同士をつなぎ合わせていた。)車椅子を担当看護師の伊藤さんに押してもらい、一日に一時間ほど院内を散策することを許されていた。右腕、右足ともギブス固... 続きをみる

  • イブ#その48

    海水浴に行った日から一週間が経ち、イブの石田家での生活も少しづつ慣れてきた。就職口だがいずれは将来性のある一流企業か、類稀なる容姿を生かせる職に就くためのオーディションに応募する機会を待とうとの、均の提案が支持された。均は、イブがロボットだと知っているから、自分で『将来性』と言った時、思わず苦笑し... 続きをみる

  • イブ#その46

    バショウカジキのような強靭で大きな尾鰭はないが、その分足部の振幅を小さくし超速駆動する事でハンデを補って爆発的遊泳を可能にした。一方沖合いで遭難中のボートの上では、泣きじゃくる弟をなだめる事に疲れた姉が、ほとんど力の入らなくなった腕で、それでも歯を食い縛りながら、再びオールを握り漕ぎ出していた。し... 続きをみる

  • 山籠もり・その1

    太陽が西に傾き、骨とう品屋・響の看板が朱色に染まって眩しい。 夕飯まで、まだ間があるので、ハヤテはじいちゃんが作った木工品や彫り物を見ている。 冴子は外国本の翻訳が順調なのか、ご機嫌な様子で鼻歌交じりに料理を作っている。 麗美は自分の部屋で宿題と予習、復習をしている。家庭教師だった清志に辞めてもら... 続きをみる

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  • 清志と秀也・その10

    秀也は非常階段を降り、校舎の裏側を通って垣根の外に出た。ここは昼間でも薄暗く、舗装が施していないため雑草が足のくるぶし程伸びてはいるが、かなり広い側道である。ここを通る車や人はいない。なぜなら、道なりに進むと行き止まりとなっているからだ。通知表に影響する試験日には佐竹がこの場所で車の中から解答を秀... 続きをみる

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  • 清志と秀也・その9

    そして今また、忌まわしいあの鳥が秀也の襲ってきた。なぜなのかわけがわからないが、とにかく屋上の出入り口まで走って逃げ延びなければ、またあの時の二の舞になると思った。必死の形相で走る。喘ぎながらも、ドアまで1、2メートルのところまで来た。(助かった!)と思った。ノブに手を掛けて開こうとしたとき後頭部... 続きをみる

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