takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

(序章)まっとん心乱される其の2

まっとんは身長170センチ。中2でこの身長なら高いほうだ。父の英人が163センチ、聡子が165センチ。


母の聡子は良いとしても、英人は運動クラブに入って頑張っても背が伸びなかった。それが未だにコンプレックスとなり、少しいじけて物を見る面がある。まっとんは母親の遺伝子と親二人の勧めで牛乳を毎日1リットル欠かさず飲んでるおかげで、並みの中2の身長にまで成長した。まだ中2だから、これからの伸びしろは充分にある。弟の広志も同様で心配しなくても良さそうだ。両親はその点には大いに満足しているようだ。ただ、父親の英人は正人が中1で早々にバスケットボールを辞めてしまったのは勿体ないと思っていて、聡子と二人で話す時、ついグチをこぼしてしまう。英人も聡子も外見はそう悪くないので、子供達もそれなりに整った顔をしている。特にまっとんはパーツの配置はよいのだが普段暗い表情でうつむき加減で居る為、魅力が半減している。実は校内に密かなファンがいて、思いを寄せているのだが全く本人は気が付いていない。中2ともなればそろそろ異性に興味を持つ年頃。まっとんだって女性に好かれたいとは思っているが、子供っぽさがまだ抜け切れていない。


今日も長く退屈な授業がようやく終わり、級友で同じく帰宅部の小山と校門を出た。


最近帰宅途中の公園のベンチで30分程とり止めのない話をしてから帰るようになり、


今日も自然に道路を逸れて公園に向かった。午後4時過ぎでの5月の空は突き抜けるような青空で爽やかな風が頬を撫でるようにやさしく吹いていて心地良い。


枝葉からの木漏れ日がモザイク模様を映し出しているいつものベンチに並んで腰を掛け先ほど自販機で買ったコーラのプルトップを人差し指で摘まみ上げた。いつも通りの平和で怠惰な時間と空間。意識さえすれば車の行き来するエンジン音くらいは聞こえてくるが他になにもない。風に吹かれて揺れる広葉樹の葉の擦れる音がサラサラと頭の上から降ってくる。小山は「あ~あっ」と何気に大声を発し空を見上げ、その声に反応したまっとんがちらりと小山の表情を覗き見て、同じように空を見上げた。中2ともなれば楽しいことはたくさんありそうなのだが、この二人に限って言えば、この後うちに帰ってテレビを観るかゲームをするだけ。宿題はできればやるけど、面倒くさいので次の日秀才のノートを写させてもらうこともしばしばだ。小山は近所にある学習塾に週3で通っている。今日は塾がある日で、寄り道の時間も限られている。まっとんも聡子が塾を勧めてくるが、高い月謝を払ってまで、なんで嫌な勉強をしなけりゃならないと思っているから、決して首を縦に振らないでいた。今日も相変わらずコーラを喉に流し込みながら、今日学校で起きた出来事や気に食わない教師の悪態をついて、怒ってみたり嘲笑したりしている。


ふと、いつの間にか5,6メートルほど離れた位置に備わっている対面のベンチに誰か座っていることに気づいた。


まっとんはコーラの缶を持っている手で小山の腕をトントンしてこちらを視た小山に顎で対面のベンチを観るように促した。小山もそこに人がいることに初めて気づいたようで、驚いたように口を半開している。


二人がなぜ驚いたかというと、その人物の容姿が普通ではなかったからだ。天狗の面を被り(素顔が天狗でない限り)一本歯の高下駄を履き、手にはヤツデの団扇を持っている。しかし服装はというと、見るからにジャージっぽい。そして一番驚いたのは背中に生えている真っ白い大きな翼だ。


(こんなところに天狗のコスプレした人?なんの意味あって?)二人とも同時に思うことは一緒だ。でも、とても笑えない。いや恐怖心さえ沸いている。二人は申し合わせたように腰を浮かし、そっと立ち去ろうとした。その気配で天狗がこちらを向いた。(うわっ!こちらを向いた。やばいんじゃないか?)なぜか金縛り状態になって眼だけ天狗を凝視したまま身動きできない。すると、こちらの状態を無視するように天狗がスッと立ち上がった。天狗の面が上を向いた。二人は(あっ)と心の中で発した。(飛ぶんだ)と何となく感じた。その瞬間、背中に生えた翼を本物の鳥の羽の如くバサリバサリと大きくはためかせて空を翔けていった。