takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

(序章)まっとん、こころ乱される其の5

公園の街灯に明かりがともった。ただ、周りは色彩を失うほど暗くなってはいない。
「後、2,30分ほど話を聞かせてもらえるかい?」と立山が言い、「はい」とまっとんが返答した。「と言ってもわしは天狗の正体を知っている。いっとき行動を共にしていた時期があったんでな」と立山。過去を振り返っているに違いない、そんな遠い目をしている。「僕らがこのベンチに並んで座っていて、その人はあそこのベンチにいつの間にか座っていたんです。ほんと、びっくりしました。僕らは、なんか変な事件に巻き込まれそうでここから逃げようと思ったんです。普通なら必死に逃げて、その後公園が見えなくなる程の距離まで来て、息切って『怖かったな』で終わりなんだろうけど、あの時は天狗のほうが先にアクション起こして・・・・」「ほう、天狗が君らに何か仕掛けたのかい?」お前らがいつの間にか君らになった。
「いえ違うんですよ。あの・・・空をですね、飛んで行ったんです。白い翼が背中に付いていて、それがバタバタと鳥のように・・・羽根のようにバタバタとしたら、本当にこう空中に浮いて、そのままこの木の間から飛んでったンです。うわっ、すごいもん見ちゃったな俺たち。明日、学校でみんなに言わなきゃ、家に帰って家族にも。信じないだろうな~」中学生のとり止めのない話を遮ることなく黙って聞いていた立山が、ちらっと腕時計を見て「その時の状況は大体わかった。実は天狗が空を飛べるのはワシも知っている。ワシが遅刻さえしてこなければ、何事もなく収まっていたんだろうけど。でも普通の人たちには面倒な事態になる事を避けて正体を現さないんだけどな」立山は顎に手をやりながら小首を傾げる。それからしばらくの間天狗のイメージとか、装束についてまっとんの独り舞台となったところで、「君、どうもありがと。時間も丁度だ」ふと、宙を見据え、「明日は土曜だけど、午前中何か予定あるかい?」「いえ、何もないです」まっとんが即答した。
「じゃあ、明日の9時にここでまた会えるかな?今日のお詫びに飯でも奢るからさ。その時にもっと踏み込んだ面白い話をしてやるよ。俺はこの天狗の活躍を一冊の本にして売り出そうと思ってるのさ。きっとベストセラーになる」まっとんは何かワクワクしてきた。「ホントですか~!すげーな。明日9時ですね?分かりました、必ず来ます。じゃあ、失礼します!」しっかり頭を下げて、急ぎ足で帰って行く若者の後姿を立山は視界から消えるまで見続けていた。