takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

(序章)まっとん、心乱される其の1

「正人~、遅刻するわよー!」階下で母の呼ぶ声がする。
「は~い、いまいくー!」まっとんは返事をして、滑るように階段を降りキッチンに向かい、いつもの自分の席に着いた。今朝もいつも通りトーストとハムエッグ、そして牛乳だ。小5の弟の広志は、既にほとんど食べ終わっていて残すところ牛乳がコップに3分の1程。それをゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み切ると、「プハ~ッ!」と一声発し、足元に置いてあるランドセルを片手で担ぎ玄関に向かった。この一連の動作は、平日のルーティンで、誰ひとり気にも留めない。とは言っても、大家族ってわけではない。両親とまっとん、弟の広志の4人家族。父の英人はまっとんが起きだす頃にはすでに出勤し家にはいない。母の聡子はパートタイマーで、近くの機械部品工場の事務員として働いている。
父親の英人はこれまでに2度転職をして、その度に企業ランクが落ちていき、それプラス勤続年数が少ないので、当然給料も満足言うほど支給されない。安アパートで、夫婦共稼ぎしてどうにかこうにか中流階級の底辺にしがみ付いて生活しているという状況である。
まっとんは中3になれば、高校をどこにするか考えなければならないが、現在まだまだ必要ないと思っている。進学校を選べば大学まで目指す訳で、お金に余裕のない我が家、そして成績が常に中の下の自分としては、まったくそちらに興味がない。しかし、日本の現在は8、9割がた大学に進学するわけで、会社勤めするとなれば、学歴が大きく物をいう事はのんびり屋のまっとんだって知っている。(今はそんなこと考える時期じゃない。青春を謳歌するんだ!)そう云う時の頭の切り替えは早い。だが、青春を謳歌しているととてもいえない。スポーツクラブにも入っていない(1年の終わりにバスケットボール部退部)文芸クラブも入らない。もちろん彼女もいない。なんとなく学校に行き、終礼のチャイムの音と共に帰宅する。同じようなタイプの小山大吾と分岐途中までとり止めのない話をしながら、だらだら歩いて帰るのが常である。