takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

鞍馬龍二 その22

それからというもの、「おい逃げ虫邪魔だ、どけ!」と体当たりをかまされ、「こら!逃げ虫、残飯捨ててこい。」と小突かれ、「なにやってんだww!逃げ虫、皿が足りないぞ~、早くしろ。」と怒鳴られる。「済みません。もう少し待ってください。」と応えると「ばっきゃろww!もたもたするな~。やっぱ、逃げ虫はあかん奴ちゃなあ~」と蔑まれる。耐えに耐えて今まできたが、程ほど嫌になってきた。(もう、ここを辞めよう。別に此処でなきゃあダメって事ないし。第一、俺はどうしてもバイトしなけりゃ困るわけじゃない。明日にも店長に辞めますって言おう)何か自分が情けなくなって目に涙が溢れ、ゴム手袋をしているから拭けないので、肩の付近に顔を持っていって拭った。龍二は横でそれを見ていた。いつでも味方について先輩達に対抗する事はできる、勝ち負けは別として。しかし、当の本人の強い意志があってこそ成せる事だと思って黙っていた。辛抱出来ず逃げるなら、それを追うまい。ここで自分が割って入って、その場凌ぎに解決しても 彼が今まで通りなら、また直ぐに同じ事を繰り返すだろう。これは本人の意志次第だと思って見ていた。
「龍さん、それは違うよ。」一目惚れして顔を赤らめていた澄ちゃんにも、3ヵ月という歳月の流れとともに龍二を龍さんと呼び、言いたいことは気兼ねなく言えるまでになっていた。勿論、もう顔を赤らめることもない。「私も酷い目に遭ってたからその人の苦しさはよく解かるの。彼は自分でなんとかしようにも、対抗する力がないの。龍さんは強い人だから自分を基準にして『強い意志で』と、思うかもしれないし、そういう人には相手もかかってこない。それが出来ないから今の状況があるのよ。」いつもの時間。大満足食堂で龍二のバイト先での出来事を聞いているうちに、自分の過去がオーバーラップして来て、思わず我慢できなくなった澄ちゃんは悲痛の声を上げた。「龍さんが力になってやりたいと思うなら、まず声を掛けてやってよ。でなけりゃ周りは皆、自分を虫けら同然だと思っていると考えてしまうわ。孤立無援なんだ自分は、も・・・。」「彼に代わって喧嘩をしなくてもいいの。今の彼に必要なのは、自分を理解し辛い気持ちを分かってくれる人なんだと思うよ。」澄ちゃんは真剣なまなざしで龍二を見た。少しの間、目を閉じて考えていた龍二が「うん!」と言って目を開け「そうだな、澄ちゃんの言う事が当たっているかも。今日は彼の話をじっくり聴くことにするよ。こうなった原因は、俺が良かれとお節介した事に端を発しているって事もあるし。」頷きながら龍二が言った。澄ちゃんはお節介の意味が解らず小首を傾けたが「そうしてあげて。」とニコリと笑った