takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

鞍馬龍二 その21

圭太は、今日だけは授業がもっとあればいいのにと、本気で思った。昨日の帰り際、龍二に向井先輩たちに対して軽口をたたき笑って別れたが、眠りにつく前に雀荘での出来事が次々と思い出されるにつれて、前以上に先輩たちからの苛めがひどくなるのじゃないかと不安になって寝付けなかった。だから今日はバイトに行きたくないのだ。あのときはバイト代を取られなくてよかったと単純に喜んだが、あの人達にしてみれば、俺が原因で、最悪の結果を招いたと思っているだろうから仕返しを企んでいるかもしれない。いっそ、ずる休みしようかと考えた。(自分がバイトする前は鞍馬さんが一人でやっていたんだから、一日くらい休んだってどうって事ないだろう。お金が入らず損をするのは俺なんだし、他の者が困るわけじゃない。そうだ今日さえ顔を出さなきゃ、先輩たちも忘れるさ)と自分に都合のいい言い訳を並べ立てた。実は幼い頃から面倒な事や嫌な事があると即逃げを決め込む。災難は避けるのが利口者のやり方なんだと、自己弁護をして全て回避してきた。自分は立ち向かったり戦ったりしても勝てないだろう。痛い目や傷つくのは御免被りたいし、わずかにあるプライドに傷が付く。そういうことを恐れる由の防御策なのである。人生には幾つもの分岐点があり、その時些細な出来事でも、自身のとった判断によって将来の自分に大きく影響してくる事がある。それが今だと気が付く術もない。店に「頭痛がするので。」と、電話をし、暫くの間モヤモヤしていた気持ちでいたが『夕焼けニャンニャン』を観ているうちに吹き飛んでいた。
次の日、レストランに行くと、龍二が大丈夫かと心配してくれ、もうスッカリよくなったと頭を下げた。洗い場作業は、今日も忙しく しかし昨日休んだ後ろめたさがあっていつもより精力的に動き回った。充実感があった。(こんな仕事でも満足感って味わえるんやな)と思った。仕事が終わり、ふたりしてロッカールームに行くと、向井ら3人が着替えていた。「お疲れさんです。」と挨拶して、自分のロッカーへ行こうとすると「おい、立山よ~」向井が声を掛けてきた。ぎくりとして「あっ、はい。」と応えた。「サボってんじゃないぞ、こら~!」直球を投げてきた。「サボってなんかいません。頭が痛く・・・」「バレバレな嘘つくなっーの。こいつらと言っていたんや。これからはお前の事を、『逃げ虫』って呼ぼうってなあ。逃げる弱虫ってことさ、ククッ。これから『逃げ虫』って呼ばれたら はい、って返事するんだぞ!」強烈なカウンターを喰らった。ここで働いている以上このあだ名で呼ばれ続ける。呼ばれる度に、気持ちが沈みそうだ。「...。」「何黙っている、返事は~!?」「・・・はい。」仕方なく答えた。