takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

鞍馬龍二 その23

下校後、レストランに行って店長にバイトを辞める事を告げた。店長は急な話に戸惑ったが、身分が学生と云うことで無理やり引き止める訳にはいかなかった。圭太は家事都合と言うだけで本当の理由を明かさなかったが店長はしつこく訊いてこなかった。その足で世話になった龍二の下宿先の『響』に向かった。もう気分的には、さっぱりとして何もこだわりは残っていない。また退屈な日々に戻るだけなのだ。『響』に着いてガラス戸を開けると、おじさんが居眠りをして椅子に座っている。「あの~済みません。」と声を掛けると「わっ!」と驚いたように眼を開けた。「ここに鞍馬 龍二さんが下宿していると聞いてきたんですが、みえますか?」と圭太が言った。「ああ、龍二の友だちかい?あいつならこの道真っ直ぐ200メートル程行ったところにある『大満足食堂』って名前の店にいるよ。」ニコニコして春蔵が指差した。圭太は指差した方向に一旦顔を向け頷いた後、お礼を言って店を出た。(やっぱりあるんだなあ、古物商って)買い物に来た訳じゃないからじっくり店内を観られなかったが面白いと思って、外からもう一度ガラス越しに店内を観た。
5,6分も歩くと食堂の看板が見えてきた。外から店内を覗くと龍二が座っているのが見える。若い店員の女の子と嬉しそうに話しをしている。(こんな時に俺が入って行っちゃあ、お邪魔虫かな?)圭太は自分の事を2人が話しているとも知らず、要らない気使いをして外から見ている。(顔も観たし、ここから失礼するか)深々と頭を下げて引き返した。その後二人は社会人として再会するのだが、それまでは出会うことはなかった。
龍二がレストランに着きロッカー室で着替えていると、店長が入ってきた。「鞍馬くん、立山君がね、今日バイトを辞めたんだよ。暫くまた忙しくなるけど急いで募集をかけるから、それまで辛抱してくれないか。手に負えない時は、言ってくれれば応援するからさ。」肩に手を置き残念そうな表情で店長がそういった。(遅かったか~)龍二は落胆して唇を嚼んだ。辞めてしまったものは仕方ないが、何か後悔のようなしこりが胸の奥に残った。彼が辞めた事を知ってか知らずか、調理場では向井らが忙しく動き回っている。今更彼等にどうこう言っても仕方がない。モヤモヤしている気持ちを振り切る様に、溜まっている食器を片っ端から洗い始めた。