takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

鞍馬龍二 その24

月日は流れ農業高校を卒業した圭太は、農業に従事する事を嫌い、同地区にある農協(現 JA)になかば縁故によって就職した。両親は、ことのほか喜んでくれた。そして自分も、社会人としての第一歩を無事踏み出せた喜びを感じながら日々忙しく働いた。
そんなとき一通の封筒が届いた。差出人として『鞍馬 龍二』とある。バイト以来、交流の途絶えた仲だったが、彼の事は忘れようも無い。それ程、バイト時代での彼は絶大なる存在感と強烈過ぎるほどの印象を圭太に与えていたからだ。封筒の中は手触りするとかなり厚みがある。ハサミで開封すると中から二つ折りの真っ白な厚紙が出てきた。開いてみるとそれは結婚式の招待状だった。彼には初めて観るものだったし、しかも自分宛だったから、自分も一人前の社会人になれたんだと妙に納得しながら、印刷された内容を読んだ。
龍二の横に『仁科 澄子』とある。式の月日や電話番号が記載されたハガキが一枚同封されている。出席か否かはそのどちらかで連絡という事なのだろう。(龍二さんは俺の一個上だからまだ十九か二十歳。えらい早く結婚するんだなあ)久しぶりに顔も見てみたいし、何よりもこんな自分に招待状を送ってくれた事が嬉しくて(よし、出席しよう!)早速カレンダーに印を付けた。
式場は名古市の中心で双葉町。そこは近代都市なのだが同じ市の中でも龍二や圭太が住んでいる町は田舎の方で、彼等が『街』と呼ぶのは双葉町のことなのだ。
当日はよく晴れていて春の爽やかな風が心地よく吹いていた。社会人になって買った礼服の初着用である。薄手の春コートを上に羽織って圭太は玄関を出た。自転車に乗り駅まで10分程。ローカル列車で名古駅まで2駅越えなければならない。ちなみに龍二が住んでいる『響』はひとつ手前が最寄り駅なのである。名古駅に着き大通りを15分程歩くと、白亜の城が目に留まる。(ここだ)そんなに大きな建物ではないが、華やかさと厳かさを上手くマッチさせて主賓は勿論のこと、来賓客にワクワク感を抱かせる造りだ。
圭太は時間より少し早く着いたので、玄関に入って受付を済ませた後、手持ち無沙汰でうろついていた。と、そこに制服を着た女子高生が入ってきた。スタイルも顔も素晴らしく良い。思わず見とれていると、その後から春蔵がのっそりと現れた。
(あれ?古物商のおっさん?)「お父さん、早く早く~!」と女学生が急かしている。(おじさんの娘?へ~)「冴子、まだまだ時間あるから大丈夫だよ~」なんて息を切らせてヨタヨタ後を追っている。その後を奥さんらしき婦人が苦笑して歩いて行った。(何かお騒がせ家族って感じだなあ)圭太は思わず笑ってしまった。