takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

鞍馬龍二 その26

共に親族の少ない二人だったから、そう広くない挙式の間でも空間だけが目立つのだが、厳かな雰囲気は より一層漂く、心地よい緊張感の中で粛々と儀式が執り行われた。誓いの言葉を読み上げる龍二の声は緊張で少し震えて聴こえたが、皆には真摯な心からの言葉として響いてきた。
白無垢に文金高島田姿で隣に立っている澄子もまた、緊張の面持ちでその言葉を胸にきざむように聞き入っている。とても幸せそうな二人を親族達が見守る中、三々九度の盃を干し、お互いの指に指輪をはめて、式は滞りなく無事完遂することができた。龍二は世界で一番愛している澄ちゃんを、どんな事があっても幸せにしてみせると、あらためて強く心の中で誓うのであった。
写真撮影も終わって、いよいよ披露宴が始まる。緊張感から解き放たれた面々もこれから存分に楽しめるという期待感でいっぱいの表情となった。披露宴は洋風の広間で床には絨毯が敷きつめられ、天井には大きなシャンデリアがあちらこちらで華やかに煌めいている。圭太は前もって渡された栞を見ながら、自分の名札のあるテーブルへと進み確認して座った。円形のテーブルには真っ白なテーブルクロスが敷かれてあって、中央に色とりどりの花が咲き乱れていた。様々なグラスは曇りひとつなく磨かれていて、それがシャンデリアの光によって宝石のように眩しく輝いている。会場のお手伝いをしてくれるスタッフが、てきぱきとグラスにビールやジュースを注ぎ準備が整った。皆が着席した事を司会進行の女性が見回して確認すると、マイクによって『只今より、鞍馬家、仁科家による結婚披露宴を執り行います。司会はわたくし後藤と申します。どうぞ宜しくお願い致します。』パチパチと拍手喝采で開幕となった。ひな壇には主役の二人はまだ姿を現わしていない。と、照明が消され音楽が流れて、皆が何だ?と思っていると、中央の大扉が開き『新郎新婦の入場でございます。温かい拍手によってお迎え下さい』の声が響渡った。新郎の前に伯父の春蔵が、新婦の前には大満足食堂の女将さんが仲人として、一歩一歩踏みしめるように歩いて来る。盛大な拍手で迎えられ着席後、司会によって鞍馬の上司が乾杯の音頭をとり、その後はいよいよ料理を堪能できる段となった。あちらこちらで和やかに笑い声が聴こえ、立ち上がってビールを注ぎに回る者もちらほら現れた。圭太は響母娘と同席で、彼女らの他愛もない会話をききながしながら、舌鼓を打っている。新婦がお色直しで、離席するといよいよカラオケの出番となり、司会者が用紙を配ってリクエストを募った。
圭太はニューミュージックが好きなのだが、ここでは郷ひろみの『お嫁サンバ』を歌うことにした。響家の婦人からビールを薦められ、恐縮しながらコップを差し出しているところで司会者が自分の名を呼んでいる事に気付いた。(うわ、一番最初?!)慌ててマイクの所へ向かい、そして歌った。緊張したが無難に歌えたと思った。拍手もたくさんしてもらい気分も上々だ。