takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

鞍馬龍二 その30

何とか無事結婚式も終わり、いよいよ二人の新婚生活が始まった。龍二が今までお世話になっていた響家にはもう住むわけにはいかない。市役所付近の小さなアパートを借りて住むことにした。龍二は澄子をとても大事にした。澄子も今まで通り食堂で働きながら家事をこなし、疲れた顔一つ見せずに頑張った。二人はお互いにとても充実した生活を営んでいた。(生き甲斐はこの人に喜びを与える事)互いに口には出さないがいつもそう思っていた。そして半年が経ったある日、夕飯時に澄子が口を開いた。
「今日ねー、アルバイト休んじゃった。」「えっ?何かあった?」「うん、病院に行ってたのよ。」「病院?どこか体の具合悪くなったの?」「ううん、そうじゃなくてね。気になることがあったんで、診てもらいに行ったの。」澄子は何故か形容しがたい表情でそう言った。龍二は言っている事がよく飲み込めない。ひょっとして癌とかの兆候があって...とか悪い方に考えがいく。ごくりと唾を飲み「で、どうだったの?」と訊いた。少し間が開き澄子が応えた。「うん、出来てた。」「えww?出来てたww?」龍二はショックで言葉を失った。「初期なのか?!」「うん、3ヶ月だって。」(3ヶ月ってなんだ?発生から3ヶ月経過していたということか?発見が早かったのか遅いのか?どうなんだろう)「そうか~、えらいことになったな~」龍二は眼を潤ませて頭をかかえた。澄子は不思議そうな顔をして「どうしたの?嬉しくないの?」と言って、龍二の顔をのぞき込んだ。「嬉しいw?何を言ってるんだ。病名は何だったんだ!」顔を赤らめ怒った口調で龍二が訊いた。(あらいやだ。この人、勘違いしているわ)心の中で頷きながら、澄子がゆっくりと龍二に言った。「私たちに子供が出来たのよ。」どんな反応をするか龍二の顔を観ている。
勘の鋭い龍二にしては珍しく、一瞬何を言っているのか理解出来なかった。いや頭が理解してもリアクションがついていかなかったと云うべきか。じっと澄子の目を見ている。次第にその目が大きく見開かれ驚きと喜びの入り混ざった目となり「おおおwww!!」両腕を上げて拳を作りながら雄叫びをあげた。そしてその手を澄子の両肩に持って行き揺さぶる様にして「やったな!うん、よくやった!」そして抱きしめてその喜びをあらわした。普段は、冷静沈着な龍二なのだが、この時ばかりは感情を素直に現し、満面の笑顔を澄ちゃんに見せたのだった。