takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

鞍馬龍二 その35

閉じている瞼の奥で眼球がせわしく動いている。まるで瞼の裏側がスクリーンになっていてその映像を観ているかの様に。顔の表情は刻まれたシワによってこちら側からは読みにくいが、吹き出している汗が尋常でないことを物語っている。
軽い気持ちで頼んだ占いが、もしや凶と出るんじゃないかという不安が二人の心に暗雲をもたらす。おヨネさんは不意に瞼をきつく閉じ身体を硬直させながら「ひゃww!」と大きな声で叫び身震いした。血の気が引き蒼白な顔色をしている。瞼の裏には一体何が映っているのだろう。二人は叫び声におののきながら不安気に婆さんを見つめるしかなかった。おヨネさんはやがてカッと目を開き体全体で『はあ、はあ』と、荒く大きく呼吸する。眼から頬にかけ、汗か涙か判らない液が一筋、ふた筋流れ、畳の上に落ちた。
おヨネ婆さんは観てはならないものを観てしまった。今ほど自分の能力を恨んだ事はなかった。目の前の幸せそうな二人と対照的にフラッシュの様に垣間見えた映像の何と残酷な事か。何とか、しらばっくれる手立て考えなければと衰えた頭をフル回転させていた。映像の一つは、アパートらしき建物のかなり高い所から木の葉の様に落下する澄子。そしてもう一つは雨の中を喪服姿の行列が傘を差しうなだれながら歩いている。先頭に龍二が遺骨の木箱を白い布に包み首に掛け、その後を祐蔵が一歳程の子供を抱いて誰かに傘を差し掛けて貰って、歩いている光景である。


澄子と龍二は、不安そうにおヨネさんの口から出る言葉を待っている。黙っているのにも限界を感じた。と、その時今まで晴れやかだった空が、瞬く間に掻き曇った。開け放っていた玄関口から湿った風が勢いよく吹き込んで3人は思わず身を屈めた。『バチバチバチwww!』と、風の後を追うように、豪雨が時化込みながら叩きつけてきた。外では木々が悶え苦しむように、うねりを繰り返している。おヨネさんが頭を抱え何かを叫んでいる。「頭がイタイ!イタイww。頼むから帰ってくれww」2人には確かにそう聴こえた。龍二と澄子は顔を見合わせ、龍二が小さく頷くのを期に、時化の中を寄り添いながら車まで戻った。龍二は釈然としない気分のまま、フロントガラスを忙しそうに行き来するワイパーを暫く視ていたが、やがてギヤーを入れて車を発進させた。