takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

hayate2 悪魔の掌中その1

無精ヒゲをはやし、今まで死んだ魚のような目をしていたオッサンが急に生き生きとしだした。そしてハヤテにこう言った。「それよりも、ひょっとしたらかなり遠くて時間がかかるかもしれんな~、あんた、トイレしとかなくていいんかい?」(ん?そういえば何となくしたくなってきた様な)「そうですね、じゃあちょっと待ってて下さい。」そう言ってリュックを背負おうとした。「ああ~いい~!いいって!俺がここで荷物見ていてやるから早く行ってきな。」「えっ?」ハヤテは、まじまじと立山の顔を見た。「なっ何だよ~」立山はギクリとした。「おじさんって・・・」立山は身構えた。「すごくいい人だったんですね!」(ええwww?!)「そっ、そうよ~!おりゃ~この辺りじゃ親切者で通ってるんや~」と胸を張った。「じゃあ済みません。急いで行ってきます。」ハヤテはそう言って駅構内のトイレに向かって走って行った。(ど田舎者やなあいつは~。まさか本当に信用するとはな~)半ばあきれ、半ば したり顔で隙なく辺りを見回す。駅員は駅舎の中で、机に向かって何か書きものをしている。(よし!今だ!)立山はリュックを抱き抱えるようにして、待合所を出た。人は誰一人いない。(いける!いけるぞ!)目がギラついている。うす暗い路地へと飛び込んで行った。
立山のオンボロ借家は駅から歩いても5、6分の所にある。だが万が一にも尾行られるのを警戒してわざと狭い路地を大回りしていた。(あほや!馬鹿や!間抜けや!あはは~!これで借金返してお釣りが来るぞ~)ブツブツ呟きながら懸命に走っている。遂に人の物に手を出してしまった後ろめたい気持ちを追い払う様に。
その頃トイレを終えて待合所にハヤテが戻ってきた。「ありがとう、おじさ・・あれ?」
「何処にいるんかな~、おじさ~ん。」辺りを見回し物陰を覗いたりしている。「おかしいな~」駅舎のガラス戸を開けて、駅員に特徴を言って尋ねてみたが、分らないと言う返事が返ってきただけだった。暫くぽけ~っと突っ立って何もない空間を見ていたが騙されたと気付くと怒りが湧いてきた。「くそww!だまされたww!」駅員が驚いてこちらを見ている。ハヤテは駅の駐車場まで出てきて首に掛けている小指程の細い木片を手に持った。それを口に加え、空に向かって吹いた。『ピーヒョロヒョロww』と鳶の鳴き声と良く似た音色が出た。10秒も経たないで『バサバサバサ・・・』と鳶の信長が肩にとまった。
ハヤテは信長に向かって何か喋っている。信長は時折コクコクと上下に首を振って応えている。「頼む!」とハヤテが言うが早いか信長が肩から空に飛び立って行った。