takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

悪魔の掌中その2

完全に尾行者はこないと確信した立山は、荒い息を整える様にゆっくり歩いて家路に向かっていた。時々上空でバサバサと鳥の羽音がする。見上げると薄暗い空に大型の鳥が円を描くように真上を飛んでいる。(なんや、トンビかいな。俺の真上ばかり飛びやがって気色悪い)石ころがあったので投げてやろうかと拾ってはみたけれど、付近の家のガラスを破ったりして咎められる可能性もある。今は、目立たぬようにただ家に帰り着く事だけ考えようと気を持ち直した。信長は意識して時折高く飛んでハヤテに位置を知らせる。暗くなりかけた空の、辛うじて見える小さな黒点に向かってハヤテは歩き出した。ポケットに押し込まれ、ストレスが溜りきってたリスの秀吉は嬉しそうにハヤテの体を木に見立ててクルクル目まぐるしく駆け巡る。
一方立山は古臭い一軒家の庭から物置に入って行った。そして出てくる時にはリュックは無く、代わりにズボンの両ポケットが大きく膨らんでいる。そしてキョロキョロと辺りを警戒しながら玄関の戸を『ガタガタ.・・』と開けて入って行った。
「ただいま~」立山は「おかえり。」の返事を待つ事なく靴を脱いで上がっていくと居間に、妻の幸恵と5歳の息子の太郎が、無視する様に作業をしていた。
造花の内職は余り金にはならないが、パートの職が見つからず、おまけに身ごもっていては致し方ないのである。太郎も簡単な部分の手助けを今では要領よくこなすまでになっていた。二人は心の中で(穀潰しが帰ってきた)と思い、それは部屋の空気となって立山に伝わってきた。「なんだなんだその辛気臭い顔は~。おい太郎!これを見ろ!」そう言ってポケットからおもむろに一万円札の束を一つ太郎の鼻先に突出した。面倒臭そうに顔を上げた太郎は、思いも寄らない物を見て「えっ?!」と驚きの声を発した。それに釣られる様に幸恵が顔を上げ、唇を震わせた。「どうしたのよ!あんた!・・・あんた、まさか、その・・・」言葉にならない。
心配そうに見上げる幸恵を無視する様に、ちゃぶ台に札束を次々と積み上げていく立山。ポカンと口を開けながら札束をみつめている太郎。百万の束が五つ積み上がった。太郎はそっと腕を伸ばし一束を手にした。「わあ、すげ~!」五歳にもなればお金の価値もある程度分かってくる。目を輝かせて撫でたりパラパラめくったりしている。「ははは~、すごいだろ?太郎。こんな大金みたことないだろ?」とご満悦だ。「あなた・・・」幸恵が不安をもろに声として発する。それを打ち消すように大声で「競馬で大穴当てたんだよ~!これで借金返してお釣りがくら~!」やけ気味にそう言って、尚も何か言おうとする幸恵の口を閉じさせた。その時玄関の戸が開く音がし、「御免下さい。」と、声がした。