takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

清志が消えた・その12

龍二が話した最強なる息子というのを一同がそれぞれに想像しだして、室内は静寂に包まれた。静寂を破ったのは又しても秀也の声だった。「叔父貴ー!誤魔化されてはいかんぜー。そいつは、そのおっさんを助けたいばっかりに嘘をついてるんだ。俺だって多少は知ってるんだぜ。龍二とおっさんは古くからの友達なんだってことはな~!」班目がはっと我に帰った。「むむっ!そうなのか?龍二。そういえばお前の話の中で息子を倒せるのは自分だけだと言ってたな~?それって、作り話じゃないのか?どこの世界に我が子を倒そうとしている親が・・・ガガガガ」突然、班目が両手で顎を押さえ、もがき苦しみ出した。汗と涙とよだれで見るに耐えられない程ぐしゃぐしゃの情けない顔をさらけ出し「あう、あう」と泣き声を漏らしている。突然の出来事に、一同はただ狼狽えて組長の一挙一動を見つめるしかなかった。「おい、班目!喋り過ぎだ。二度と喋れなくしてやろうか?それともいっその事あの世に送ってやってもいいんだぞ」激高し、鬼の形相をした龍二の言葉に全員が震えあがり凍り付いた。立山はこの時、龍二は壊れていると思った。妻の澄子がアパートのベランダから落ちて命を亡くした時の衝撃が余りにも大きすぎてナイーブな龍二の精神がそれに耐えられなくなったのが原因なのではないか?そういえば、あの事故以来、龍二は人が変わってしまった。常人なら、あの状況を仕方がないものとして諦め、徐々に日々が経つにつれて忘却の彼方に薄れ、消え去っていくものなんだと思う。これほどまでに息子のハヤテに憎悪する精神状態は異常としか云い様がない。龍二を尊敬し慕っていた立山には、今の龍二がどうしょうもなく情けない男だと思った。「龍二さん、やめてください!班目は何も事情を知らないで言っただけなんです」ギロリと立山に目を向けた龍二が「ふん!」と一言口にして気を解いた。その途端、今まで、もがき苦しんでいた班目が憑き物が落ちたように顎から手を放しソファーに倒れ込んだ。顔色は次第に良くなってきたが顎はまだ痛むのか、摩り続けている。連中は龍二が見えない力を使えることは噂でだが知っている。いや組員の一人が誤って班目に拳銃で撃たれ、死にかけていたところを龍二の見えない力によって助けられるのを目の当たりにしていて、班目に引っ張られ組に入った者も何人かいる。今起きた怪現象が龍二の力によって起こされた事だとはわかっているようだ。だが、誰一人組長に駆け寄る者も居ず、龍二に向かっていく者もいない。ただ、皆、恐怖に打ち震えて佇んでいるだけなのだ。「おやっさん、すまない。俺とした事が、つい、かっとしてしまった。人にはそれぞれ事情ってものがある。身内の事に口を挟まれることが一番気に障るんだよ俺は。それだけは気に留めておいてくれ」班目は顔を強張らせ、黙って顎を摩り続けている。皆、立山から気が逸れてしまい、どうでもよくなった感がある。それに立山の仲裁がなけりゃ、組長は今頃どうなっていたかも分からない。皆の肩から力が抜けてしまっていた。
「俺に提案があるんだがな」いつもの暗い表情に戻った龍二が、おもむろに口を開いて言った。