takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

清志が消えた・その13

「俺の提案とはこうだ。今日の所は立山を帰してやる。だが、ただ帰すのではなく伝言役を引き受けてもらう。そこの調子もんの甥っ子が言っていた学生を研究所に連れて行くから明日の・・・そうだな社員を皆帰してからの方が何かと面倒掛からないから夜7時に引き取りに来いと息子に言うんだ。足がないから、立山、お前が乗せて行ってやれ。冴子の奴がどうしても自分も行くというだろうが、あいつが来ると・・・まあいい、とるに足らんからな。来たら無条件で学生は帰してやる。だがそれで終いって訳にはいかない。ハヤテには俺と戦ってもらわにゃならん。俺が勝つか、あいつが勝つか・・・白黒つけるまで闘う」龍二は感情を殺した声で、淡々と話す。「ちょっと待て、龍。なに勝手な事言っている。あのひょろひょろ学生は秀也への落とし前をつけるため連れて来たんだぞ。それだけじゃない、こいつを黙って帰すと言うのか?警察に通報されて、ここに捜査が入るじゃねーか!」龍二に痛い目にあい、意見をするとまたやられるかもしれないとの恐怖心に駆られながらも組長としての意地が口を動かした。だが以前のような傲慢さは跡形もなくなっていた。龍二は横に座っている組長をちらっと見た。班目は「ひえっ!」っと小さく悲鳴を上げ怯えて体を縮めた。「おやっさんの言うこともわかるよ。だが、このふたりを痛めつけたり殺ってしまっても一文の得にもならない。寧ろ、組に面倒な種が増えるだけだ。それより今後の事も考えりゃあ俺が息子を倒すことは、組にとって得にはなっても絶対に損にはならない。あいつは、いずれ近いうちに組を潰しに来るだろう。友達を痛めつけた仕返しにだ。組にとって、一番の脅威は息子なんだよ。息子さえいなくなりゃ、こんな組でも当分は持つだろう」班目は組をばかにした龍二の発言に一瞬顔色を変えたが、何とか抑えながら「お前、さっきから息子に勝つ前提で話しているが負けるって事もあるんじゃないか?ひえっ!」龍二は「ふふ、そうだな、勝負に絶対はない。その時は、俺は自ら命を絶つつもりだ。まあ勝ったとしても同じことなんだが・・・。兎に角だ。俺が勝つことを祈ることぐらいしか、あんたらにして貰うことはないよ。それから、仕合っている最中に手出しはしないでくれ。もし、やれば命の保証はないからな」そう言って全員を見渡した。誰も口を挟まない。ただひたすら目を合わさないよう、怯えながら下を向いている。「立山も・・・話は分かったな?おやっさんが言ってたが、警察に通報するのはやめろよ、纏まるものも纏まらなくなるからな。・・・じゃあ、お開きだ」龍二は班目の伺いも立てず、そう言うと立ち上がりかけた。「ちょ、ちょっと待ってくれ、龍二さん」立山が慌てて言う。「話の内容は大体分かった。いずれこうなることはハヤテ君も覚悟している筈だ。ちゃんと伝えるが・・・。清志君は今どういう状態なんだ?ここにいるんだろ?一目だけでも会わせてもらえないか?みんな心配しているんだよ」龍二に交渉する。龍二以外、言っても無理だと思っているからだ。龍二は黙って席を立ち、一番奥の部屋に歩いて行った。部屋に入って5,6分が経ち、清志を連れて歩いてきた。立山はボコボコにされている清志を想像していたが、殆ど無傷の状態でパンツ一丁の姿で立っている。ただ相当のプレッシャーが罹ったのか、たった2,3日で頬の肉は削げ、あばら骨も浮いて、まるで生きる屍のようだ。「おい清志、大丈夫か?しっかりしろ。いいか!明日には無事、家に帰れるからな。それまでの辛抱だ。気をしっかり持って耐えるんだぞ」華奢な肩を両手で掴み立山は心の底から励ました。「おい、ちゃんと栄養のあるもの食わしてやってくれよ。逃げ出しはしないから、服ぐらい着せてやってくれよ!」ほとんど叫ぶように、周りの連中に訴えた。「じゃあ、行くから・・・。清志、明日また会えるから。明日、一緒に帰ろう」喋る元気さえなくしている清志を置いて、立山は事務所を後にした。