takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

(第1章)親子の死闘その後.1

店内は外観の通り、広くはなかったが落ち着いた感じの雰囲気をインテリアとクラシック音楽によって醸し出している。テーブルは4人掛けが4セット、そしてカウンターにスツールが6脚並べてある。

先に入った立山が、店内を見渡し「いらっしゃいませ」の声を聞き流しながら、1番奥のテーブルに足を運んだ。

その後をマスターにペコペコお辞儀をしながらまっとんが続く。どうやらウエイトレスはいないようで、マスターが氷水とオシボリをアルミの盆に乗せて持って来た。立山は早速オシボリで手を拭きながら、当然のようにメニューも見ず「モーニング2つ。コーヒーはホットで」といい、まっとんの方をちらっと見た。まっとんは笑顔をつくり頷き返した。マスターは「かしこまりました」と頭を下げ引き返した。まだ中学生のまっとんは喫茶店なんかには滅多に来た事がない。家族で特別な行事があり、その流れで親に連れて来てもらうくらいだ。だから、目の前のサングラスのヤバ系の人とふたりでコーヒーを飲むなんて今までの自分では考えられない出来事で、落ち着かない気持ちと反面、ちょっと大人になった気がして(こんなところをクラスメイトが見たら驚くだろうな)と、心の中でほくそ笑んだりした。


二人はオーダーしたモーニングを待つ間、周りを見渡したり氷水を飲んだりしていたが、立山がおもむろに前かがみになり、顔を近づけながら小声で「昨日言ったように、君が見た天狗をワシは知っている。天狗の面を被っているのはもちろん人間で、年齢は17才、男性だ。名前を鞍馬疾風丸と云う」

まっとんはびっくりした。立山がなんの澱みもなく、自分の身内か家族を紹介するように喋っているからだ。あの天狗は空を飛ぶ超人だ。

映画やアニメの二次元世界ではなく、現実では絶対あり得ない事、不可能な事。そんな超人が突然この世に存在してますよと軽く言われてもどういうリアクションをとって良いか分からない。ただ、まっとんは現に空を飛んだのを目の当たりにしているから、信じざるを得ない。不思議な気持ちで立山の口元を見ている。