takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

(第1章)親子の死闘・其の6

まさか、目に映る全ての景色の中で、ここだけは無いだろうとまっとんが思った家屋の敷地に立山の軽自動車は申し訳なさ気にトロトロと入っていった。
心の中で思わず溜息が出た。崩れかけたあばら家との形容詞があまりにもピッタリくる家だと内心思った。車を停め立山が出たタイミングでまっとんも降りた。
立山は無言で、玄関とおぼしき入り口の戸をガタピシと開けた。それに続いてまっとんも玄関に足を踏み入れたが、薄暗くて辛気臭かった。瀬戸物の招き猫が不気味だった。それでも礼儀はわきまえていて、奥に聞こえるほどの声で「おじゃまします」と、しっかりした口調で言った。すると、「は~い」との返事と共に、いがぐり頭の少年が姿を現した。すでに立山は靴を脱いで上がり框に進んでいて、「おう太郎、何してた」と、いがぐり頭を撫でた。
「お母さんが、お父さん来たら話があるから呼んできてって」太郎が見上げながらそう言った。「ああ?しゃあねえなあ、もう。悪いがちょっとそこで待っててくれ」立山は、まっとんにそういうと、奥の部屋に入っていった。
(奥さんとしたら迷惑なんだろう。わざわざ奥さんの機嫌を損なうような事しなくてもいいのに。ああ、なんか嫌だな。ここから逃げ出したい気分になってきた)静かだ。話し声が全く聞こえない。それだけに却って不気味だ。と、突然ガシャーンと何かが砕ける音。
思わず首を縮め顔をしかめる。それから2,3分、立山がひょこっと奥から顔だけ出し、苦笑しながら「おう、待たせたな。上がってこいや」と言う。よくみると、顔にびっしり汗が噴き出ている。「あ・・の~、今日は帰りましょうか?」「ん?何言ってる、遠慮せず上がれや」「あ、はい。では・・・」靴を脱ぎ立山の後に続く。居間に、奥さんと先ほどの子供が座って、造花を針金で巻く作業をしている。まっとんを見ようともせす、挨拶もしない。足元に割れた湯飲みが転がっている。奥の障子を開けて、「おう、入れ入れ」と立山が呼ぶ。言われたまま入っていくと、今は映らないブラウン管のテレビと、電気こたつが4畳半の真ん中にデンと置いてあり、こたつ台の上には、雑誌やミカンの皮、テッシュの箱、ダイレクトメールが所狭しと散らかっている。5月も半ばだというのに、こたつ布団もそのままで、ところどころ何かのシミが黒々と付いている。
「もうちょっとしたら、ラーメン作って持ってくるからな。まだ、11時過ぎだから」とか言いながら、片手にゴミ箱を持って、手当たり次第にこたつのテーブルの上に置いてあるものを、放り込んでいく。「ま、ま、適当に座れや」「ちょっと、ビールでも。あ?いかんか?太郎のジュースあるかな?冷蔵庫覗いてくるわ」「あっ、お構いなく」まっとんはこたつには入る気になれず、床に散らばっている雑誌を適当にめくって待つことにした。居心地の悪い事、この上ないと思った。