takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

(第2章)親子の和解・其の5

いつも娘とふたりだけだから、居間に小さな形ばかりのテーブルがちょこんと置いてあるだけなんだが、大人(中学生でも)4人がこのテーブルを囲むにはキツイものがある。キッチンには大きめのテーブルがある。この際お客様扱いの概念を取っ払い、内うちの集会って形にしようと冴子は都合よく考える事にした。最初に自分の席に着いた麗美が「私、オレンジジュース」と嬉々としながら冴子に注文。冴子が「麗美、あなた友達の所に遊びに行くと言ってたよね。なぜここにいるの?」「えへへ、電話で済ませられる用事だったから、いいの」しゃーしゃーと言ってのける。ため息を吐きつつ、「あなたは?アイスコーヒーでいい?」と、まっとんに訊き「はい」との返事で皆アイスコーヒーに。冴子が席に着いてガムシロップとミルクを入れながら「で?立山さんは、私から何を聞きたいわけ?」単刀直入に訊く。
立山は飲みかけたコーヒーに咽るように咳をして目をしばたたかせたが、手を口元に持っていき咳払いをひとつした後話し出した。
「1年前…と言っても去年の9月から今は5月だから半年ちょいだな。あの壮絶な戦いの後、ワシとあんたと清志は逃げるようにその場を離れた。そして、あの出来事に封をするように近くに住みながらも、お互いの行き来や連絡を断った。ワシとしては、もっとオープンにしてもいいんじゃないかと思ってる。せっかく築いた仲間としての絆が一瞬にして解けてしまって悔しくてしかたなかった。だから、あんたがハヤテがワシに会いたいと連絡して来たと知らせてくれて本当に嬉しかったんだ」一気にそこまで喋り、乾いた喉にコーヒーを流し込んだ。「あの時」と、あの時の光景を思い浮かべるように天井を見ながら冴子が言う。「清志君を救い出す為、色々作戦を立てたんだけど。思えばマルちゃんを守るため、祖父の祐蔵さんは亡くなる間際まで念を織り込んだ翼を作って龍にいに対抗できるようにしたし、私も眠らせ姫の能力で龍にいの力を削ごうとした。微力ながら信長がくちばしで攻撃しようとしたがまるっきり歯が立たなかった。私の能力はターゲットを選べない。耳栓をすればマルちゃんは方向感覚を失くして飛べなくなる。大事な事は龍にいに近づかない事とクドいほど言っていたんだけどね。空中で二人が向かい合えば、私たちの存在なんか無いに等しいんだから。二人から物凄いオーラの炎が立ち昇っていた。息をのんで見ているほかなかった」立山も話の後を引き継ぐように、「龍二さんは木の葉や枝をナイフや槍のようにハヤテの向かって打ち続け、ハヤテは風を自身の周りに渦のように巻いて防御した。龍二さんはサイコキネシスで自身を浮かせながらの攻撃だから、念の消耗も激しく、攻撃が途絶える時がある。その時を見計らって風を礫のように放つのだが、距離が離れているため威力も弱く、狙ったところに当たらない。互いに効果的な攻撃ができないまま、疲労だけが蓄積していく」「そしてマルちゃんが大胆な作戦に出た。ヤツデの団扇を両手に持ち、自らを独楽のように回転させる。少しずつ空気が束になり、それが渦になり天上に立ち昇っていく。やがて見た目にもはっきりと竜巻が発生したのがわかった。竜巻の根元にいるのがマルちゃんで、その竜巻に引き寄せられるように周りの木々が引き抜かれていった。完全体となった竜巻に、浮かんでいるのがやっとの龍にいは逃れようもなく、あっという間に呑み込まれていった」二人の話に息継ぐことも忘れたようにまっとんと麗美は固唾をのんで聞いている。「そう、あれにはワシも驚いた。まるで人形のように吹き上げられた龍二さんを、真っ白になった脳みそでワシは見ていた。そして、地上から米粒のようにみえる程打ち上げられたところで、ハヤテがいきなり回転をとめた。途端に竜巻は一瞬で消え失せた。当然、舞い上がっていた木々や土砂と共に、龍二さんが頭を下にして、錐もみ状態のまま落ちてくる。気絶をしているのか、目が回って自失しているのか全く構えをしていない。だが、ハヤテの目には父がこんな事でくたばるとは思えなかったのだろう。止めを刺すために脳天杭打ちを仕掛けた。ハヤテの体重も掛かって、落下速度は益々上がり、地面まで数メートルとなった時、この時を待っていたかのように龍二さんが目を開いた。それは夜目にも分かるほど爛々と輝いていた。そして「捕まえたぞ」というように唇の端を歪めたのをワシははっきり見た」「そうね。それは私も感じ身震いしたわ。あれほど近づいたらサイコキネシスの餌食になると忠告していたのに、夢中になると、消し飛んでしまうのかしらね?」「ハヤテは龍二さんの体から手を放し、両手で首を掻きむしり、苦しそうに羽をバタつかせていた。まるで手負いの鳥のように。龍二さんは当然地面に激突することもなく、ハヤテの首根っこを持った状態でふわりと着地した」「こうなれば、どう足掻いてもハヤテに勝ち目はない。龍二さんの思い一つで心臓を潰すか、喉を締めて呼吸を止めるか」「私はこうなったら龍にいも、マルちゃんも眠らせてしまおうと近づいて行った。自分の声がしっかりと届くエリアまで」「でも祐蔵おじさんが念を練りこんだ鬼の面を被った龍にいのサイコキネシスは、私のエリアを遥かに凌駕するものだった。私が歌う前に察知し私は声を出すことができなくされてしまった」
「もう、全ての手は出し尽くした。このまま父の龍二さんの手によってハヤテの命は潰えてしまうのかと茫然自失に陥ったワシだったが、やはりというか奇跡は起きたんだよな」
「ええ、まるで月から降ってきたような、一筋の光の束。キラキラと舞い降りてきたのは金箔よりさらにきめ細かい光の粒。それが親子の頭上に降り注ぐ。私はその光のなかに澄子さんをはっきり見た。まるで光の粒が澄子さんの顔を模っているようだった」「龍にいが今にもマルちゃんのとどめを刺そうとしているとき、光の粒は束になって龍にいの鬼面に張り付いた。龍にいは呼吸困難になって仕方なくマルちゃんから念を解いた。
その一瞬を突いて、至近距離から空気を圧縮させた空気弾を腹にぶち込んだってわけね」
「いつの間にか光の粒は無くなっていたけど、間違いなく龍にいは、あの光の粒によって敗れた。龍にいはあの光の粒が澄子さんの化身だと気づいたはず。ひょっとしたら一瞬であっても、何らかのコンタクトを取ったかも知れない。マルちゃんがあの後、狂ったように飛来しながら空気弾で班目研究所の窓を片っ端から破壊していた時、私ちょっと倒れている龍にいの様子を見に行ったのよ。なんかすごく清々しい顔をしていた。すべて吹っ切れたって感じの」「ワシは清志を助けようと研究所の中に入っていったから、その辺の様子はわからなかったが、おそらく澄ちゃんが母性愛で我が子を守って、夫には私の為にも疾風丸を大切にしてあげてと囁いたのかもしれない。こんな想像ワシらしくないか?」と笑った。