takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

イブ#その2

博士の胸に今過去の様々な出来事が浮かんでは消えた。
幼い頃から周りの人間が自分と違う生き物に思えて馴染めなかった
両親でさえも無駄な動きを繰り返す下等動物としか思えなかった。
5歳とき、父親がパソコンの調子がおかしいとディスプレィを凝視しつつ目を充血させ必死でキーボードを操作していた。
それを後ろのソファーに座って何気に見ていたら、ふっと閃きにも似た映像が高速早送りのように頭の中を駆け巡った。「ふ~ん」と納得し、マウスを放り投げてトイレに行った父の後姿をチラ見した後ちょこちょこ歩きでデスクトップの前に立つ。
キーボードの操作は普段からみているので大体わかる。しかし触ったことがない(触ると怒られる)から、とりあえず一通り学習する必要がある。父が戻ってくるまでにそう時間がない。小さな手が目にも止まらぬ速さで動き回る。目はディスプレイに釘付けで次々変わる画面を視ている。3分程要しただろうか「よし」と典雄は声を出してその場を離れた。父が戻ってきて正常になっている画面を観て驚きの声を発した。
発しながら後ろを振り向いて典雄をみた。
「まさかお前が・・?」つぶやくように訊いてきた。ニッと笑ってうなずいた。「天才だ!えwwお前、天才ww?」とパニクってしばらく駒ネズミの様に同じ場所をぐるぐるまわり「お~そうだおか~さんにこの事知らせなきゃ」とわめいてキッチンに飛んでいった。
(あ~あやっちゃったか~面倒くさい事にならなきゃいいがww)と、子供心に思ったものだ。しかしその後両親が吹聴しても周りはそれに乗ってくれず「偶然ってやつでしょ」で片付けられ肩を落としていたが、それを見て当の典雄はホッとした。
幼稚園時代から付いたあだ名が『トコロテン』苗字の『所』と名前の『典』でトコロテン。それを言われる度にモヤモヤした気分になる。おもしろくない。
(こんなバカ達になんでいわれなあかんの?)いつもそう思う。
(だけどそんなことで喧嘩するのはバカのすることだ。こんなやつ等とは遊ばない)



「行ってきます・・」俯き加減にぼそっと呟くと玄関を出た。
幼稚園に行っても何も良いことはなかった。みんなが
滑り台やブランコで楽しそうに笑っている事が不思議でしかたがない。
追いかけっこや砂遊びに何の意味がある。
自分もやってはみたが、5分もしないうちに嫌になった。
最初のうち誘ってくれた子供たちも声をかけてもくれなくなった。
それは煩わしさからの解放だった。安心して自分だけの世界に没頭できた。
小さな手の中で深緑色の物体がグニュグニュと形を変える。
典雄は他の事には目もくれず夢中で捏ね回す。『粘土』は唯一興味を そそる素材。時間があればすることは一つ、粘土遊びだ。
粘土は自分の想い描いたものを具現化してくれるから好きなのだ。
いつものように没頭していると不意に頭を触られ現実に引き戻された。
「のりちゃん、また粘土遊び~?粘土楽しい?ん?」まりこ先生だ。
「うん、たのしい」粘土から目をそらさず応えた。
「そ~お?たまにはね~、友達とお外であそんだら?もっと楽しいよ?」窓の外を見ながら先生が言う。いままで気にもならなかったはしゃぎ声が聞こえて来た。
「いいよ。つまんないから。」大きなブロックからヘラで一握り削り取る。
「それよりまり子先生ね~。もっと質の良い粘土ないの~?
例えば30度以上ならやらかくなり20度以下なら石の様に硬くなるような。これじゃ立たせることもできないよ~」
「え?そうなの?」そういって困り顔で覗き込んだ先生の表情が驚きに変わった。「こ、これまさか、あなたが作ったの?この粘土で!なにこれ!」(とても幼稚園児がつくる粘土細工のレベルじゃないわ!なんか・・理解し難い形状の作品だけど鳥肌が立つほど洗練されてるというか・・)まり子先生は小刻みに震える手でそれを触ろうとした刹那、一瞬早く典雄の手がそれを丸め込みもみくちゃにして一片の原型も残らないようにした。「何を・・・なにするの!せっかく作ったものを・・・」
思わず声を荒げた。(あれは何だったんだろう・・・)と呆然とした顔で団子状になった粘土をまた見た。