takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

選ばれし救世主・その6

継子(けいこ)は話を整理するように、少しの間押し黙った。皆はそれが伝わったように口を開くのを待っている。父の正男は運転中だから、話にのめり込み過ぎないように自身にセーブを掛けて、時折ナビの画面を視たり窓外の景色を意識して眺めたりしている。
「そうね~、まずはご先祖さんが異星人から授かった武器がどういうものか、当事の様子をもとにして話すわ。」


早朝に目覚めた継正は、自分の枕元にある緑色した脇差しに似た2尺(60cm)程の杖状の物を見て、手に取ろうとしたようだけど、できなかった。
なぜか見た目、畳に転がっているだけと思っていた杖は、指さえ挟みこめない程重かった。考えをあらためた継正は、寝床から抜け出して杖の真横にしゃがみ力を込めて持ち上げようとしたがそれでもだめで、いよいよ立ち上がって両手を使って引き上げようと踏ん張ったが無理だった。継正は全身に汗をかきながらも好奇心に溢れていた。よく視ると持ち上げられないほど重い筈なのに、畳には全く沈んでいない。『何と不思議な杖よのう!昨夜、蛙の姿をした別の世界からの使者が申したように特別な武器に相違ないようだな。』継正は床の間にある刀掛け台から自分の脇差しを取り、それを別な所に立て掛け、障子を開けて弟子を呼び集めた。その中から屈強な2人を選んで、この杖を台に置くように指示した。集まった弟子たちは、師範は朝から何の冗談だろうと、腹で笑いながらも神妙な顔つきで杖を見ていた。いそいそと力自慢のふたりが両端をどうにか掴み込んで力一杯踏ん張った。周りの弟子たちは、このふたりはこの小さな杖を持上げるだけに顔を真っ赤にして、しかも汗まで噴出して、歯をくいしばっている。全く凄い演技力だと感心し、思わず『おー!』っと歓声を上げ、手を叩いた。そしてどうにか、よろけながらも膝の辺りまで持上げたので、継正は『おー、よくやった!あそこまで運んで、置いてくれ』と、高揚した声を掛ける。
すると持上げているうちのひとりが息を切らしながら『し、師範、台が潰れてしまいますww』と、泣きそうな声で言った。周りは(どこまでも役者やな~、こいつ)と、またもや感心した顔付きで視ている。しかし、どうにか置き切った杖は何でもないように台に横たわった。見た目吹けば飛ぶような棒っ切れを、皆が取り囲み、各自微妙なリアクションで佇んだ。


台に置かれた緑の杖を昼間、宝物を観るように楽しんでいた継正だが、床に就き寝息を発てる頃になると杖は怪しげな光を放ち、継正を包み込んだ。継正は毎夜得体の知れない夢を観るようになった。光り輝く船が空から赤い砂原に舞い降り、そのまま地中に潜った。そこの景色は全てが赤っぽかった。見たことのない建造物がそこからかなり離れた処に建っている。するといきなり場所が変わった。何かの中に入っている。さっきの飛ぶ船の中のようだと思った。中は暗かったが灯りが漏れている一角があることに気付き、ゆっくりと、そこに向かって歩き出す。
扉の影からそっと中を覗くと、電飾が虹の様に散りばめられていて、その前に豪華そうな椅子が備わっている。そこに誰かが座っていた。後ろからしか見えないが、椅子からのはみ出し具合から見て自分より大分大きいと思った。尚も隠れて見ているとやがて頭や手が空気が抜けたみたいにしぼんでいき、思わず息を呑みこんだ。すると椅子のすぐ傍の床の上に影がひとつできて、生き物らしきものが蠢いている事に気が付いた。その影が電飾の光を受けて姿を露わにした。
その顔がいきなりこちらを向いた。釣り上がった大きな目の瞳は金色で縦に細く輝き、口は顔の前に大きくはみ出し、鼻はその口の上にある鼻腔だけだった。はみ出た口の大きさは耳の付近まで裂けていたから、まるで・・・まるで大蛇人間だった。いや胴体も人のそれではないようだ。魅入られたように佇んでいると、鎌首をもたげるようにこちらを見ている。(まずい!逃げなければ)と思う間もなく、『シャー!』という声を発し、目にも止まらぬ速さで襲い掛かってきた。大きく開けた口が目と鼻の先まで近付いてきた。(もうだめだ!)そこで目が覚めた。全身に粘っこい汗が吹き出ている。心臓が踊って口からの息使いが荒い。(もう少しで殺されるところだった!夢で助かった)と安堵したが、夢はその夜だけではなかったのだ。