takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

清志が消えた・その14

とりあえず立山は家に帰った。まだら組の事務所に随分長い時間居た気がしたが、一時間も経っていなかった。外食しても良かったが昨夜、妻の幸恵に話してあったから心配しているに違いない。携帯で無事を告げても良かったが、ハヤテを迎えに行くのには早すぎる。一旦、家に戻って出直しても充分間に合うし、無駄なお金を使う事もないからだ。車を庭の一画に停め降りてくると、珍しく幸恵が玄関から出てきて出迎えてくれた。無事に戻って来たからか、ほっとしたような笑顔を見せて「おかえり」と、声を掛けて来た。「ああ、ただいま」疲れ切った自分の声に、事務所で精根尽き果てたようだと悟った。だがこうして怪我一つなく帰って来れた。これは見方を変えると龍二のお陰なんだと思えた。(また助けてもらったな、龍二さんに・・・)幸恵の肩をポンと軽くたたいて、家の中に入った。「もう昼前だからご飯の用意していたのよ。食べてきてないんでしょ?」「ああ、まだだよ」と言って、卓袱台の前に座る。ご飯の用意といっても、朝の献立(みそ汁、漬物、卵焼き)から卵焼きの代わりに焼き魚が出るだけなのだが。「今日はほら、特別に鶏肉の唐揚げ、付けてあげるよん」と笑いながら大皿にのせた唐揚げを運んできた。「うお!ごちそうだな~」立山もいっとき幸恵と声を出して笑った。(普段こわいカミさんだが、こんな時、こいつが傍にいてくれて本当に良かったと、つくづく思わされる)前に座った幸恵の顔をじっと見ていると「うん?」と幸恵が笑いながら首を傾げる。立山は「いや、何でもない」と、照れ笑いしながら「いただきまーす」と言って、ご飯を口に放り込んだ。
昼食を終え、お茶を飲みながら幸恵に事の一部始終を話した。楽しい話ではないから、ふたりの声のトーンは低い。だが冴子と話しているよりも、ずっと話しやすい。気兼ねが要らないからだ。思ったことがストレートに口から出てくる。出した言葉をすべて受け止めてくれる相手だから、まったくストレスが溜まらない。まだら組での精神的ダメージが幸恵のお陰で、かなり回復できたようだ。「よし!っと」話がひと段落着いたところで立山は立ち上がり、「じゃあ報告と今後の対策をたてに『響』に行ってくるよ。それから、夕方・・とは言っても日のあるうちにだが、ハヤテ君を迎えに行ってくる。もし、夕飯に間に合わないようなら先に食べててくれ」そう言いながら携帯を取り出し、玄関から外に出て行った。後には、心配そうな表情を浮かべた幸恵だけが残った。