takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

選ばれし救世主・その10

一体どうなっているのか?抜き身自体が色光を放っている。不思議で魅力的なそのやいばに一同は目を奪われた。ハッと我に返った美鞘が、 皆に「もうここを出よう。」と促した。お昼前、暗い祠から急に明るい所に戻ったので、皆一様に目を細め顔をしかめた。ふと美鞘はこの剣がどれほどの切れ味を持っているのか試してみたくなった。丁度、目の前に大木の小枝が 延びている。剣を上段に構え「エイッ」と振り下ろした。ガツッと鈍い音がして枝を切るどころか食い込む事さえ出来ないで止まっていた。「えっ?」驚いて刃先をよく見ると先は丸まって鋭角になっていない。つまり薄い延べ棒といった状態なのだ。これじゃあ切れるわけ無い。摸造刀の様なものだ。(何これ、お守りに床の間にでも飾っておくものなの?)帰宅途中の車内でも、ファミレスでハンバーグ定食を頼んで待っている間も考え込んでいた。せっかくご馳走が食べられるのに、余りに暗い雰意気に耐えられなくなった弟の新太が、いつも持ち歩いている携帯用のゲーム機をポケットから取り出し、キーボタンを押しだした。暫くすると派手な効果音がした。「やった~!」 喜んでみんなを見た。両親は(こんなときにこの子は・・)という眼で一瞥した。さすがの新太もシュンとしたが、美鞘が「なに、なに?何がやったーなの?」 「えへっ。レベルが一つ上がったんだ!」とニシャリ。「へ~そうなの~、 良かったじゃん。」顔を見合わせて笑った。(ん?レベルアップ・・・)そう思って車の中に置いてある剣を思い浮かべた。(ひょっとして・・・。そうかも知れない。 あの剣を扱うだけの力が今の私には備わっていないのかも・・・)(きっとそうだわ!じゃあどうする?色んな意味で家族を巻き込む事は出来ない。ウ~ン)
なにかを思いついたように、ハッと顔を上げ両親に向かって言った。「お父さん、お母さん。私ね、おじいちゃんの家に一人で住む事にするわ。学校も今の処じゃ遠すぎるから、転校する!」 「お、おい美鞘!」と「な、何を言っているの美鞘!」が被さって聞こえて来た。 「言い伝えによると地球を滅ぼそうと宇宙から侵略者が既に来てるんだよね。もう 密かに行動を起していても不思議じゃない。」「怪物から地球を守るために、私が選ばれた。選ばれた私が頑張って気合を入れなくちゃお終いなんだからー!私が強くなってみんなを守るよ。 それまでは、寂しくても辛く苦しくても耐えてみせる。再び、今みたいに平和な世で家族と一緒に暮らせる様に・・・。負けないから私は!」そう力強く言い放って生き生きとした眼で 両親と弟を見た。強固な決意と感じた親の口からは「美鞘・・・」としか出てこなかった。