takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

昭雄の事情その1

佐藤昭雄はとても不安な気持ちで登校した。本当は母親に付いて来て欲しかったのだ。だが高校生にもなって流石にそれは言えなかった。
きゃしゃで性格も大人しい彼は、これからの学校生活に恐怖感が芽生えて目眩がしそうであった。職員室に入ると、明らかにこの学校の制服ではない女生徒が一人、この間家に挨拶に来て顔見知りになった担任教師の橋爪と話ている。
昭雄に気づいた橋爪が「あ、佐藤君、来たかー」と、にこやかに笑って迎えてくれた。そして彼女の肩をポンポンと叩き「この子はね~君と同じで、今日クラスに転校して来た北見美鞘さんだ。転校生同士仲良くな。」改めて女生徒の顔を見た。ドキリとした。(はあ~何て綺麗な顔をした子なんだ・・・。)思わず見とれてしまった。 遠くで先生の呼び声がする。「お~い佐藤く~ん」ハッとした。すぐ傍で先生が苦笑いしていた。顔が火照っていくのが自分でも分かる。が、止め様がない。 恐らく真っ赤になっているに違いない。うつむいた自分を見て、二人は笑っている。 自分もつられて少し笑った。気が楽になった。(彼女いいな~。これから一緒の教室で過ごせるのか~)気持ちが華やいだ。「じゃあ、行こうか?」「はい!」 2人は同時に答え、先生の後を付いた。教室に入ると今まで騒ついていた連中の声が、一瞬にしてピタリと止んだ。皆が注目している。昭雄は意識してしまった。緊張で血の気が引いて行くのが分かる。頭の中が真っ白になった。先生がこちらを向いて何か言ってる。ボーっと先生を見る。突如、凛とした声が教室内に響き渡った。声の主は当然隣に立っている女生徒、美鞘である。「始めまして北見美鞘です!埼玉から引っ越してきました。美鞘の鞘という字普通 即、書ける人そうはいない思います。こう書きます。」カツカツと黒板に書き出した。達筆だと思った。「仲良くして下さいね。」で締めた。完璧だ。ため息を含む拍手が全員から送られた。(うっわ!やり難い~。) 少し間が開いて静まり返っている室内の空気が更にプレッシャーをかける。 「あの~」喉がからからだ。「佐藤昭雄と言います。えと、字はこう書きます。」 黒板の方に振り向きざま、足がもつれて顔面から突っ込んだ。『ボガーン』と教室内に大きな音が響き渡る。昭雄はもんどりうって、ふらふら後ろに下がり教壇から落ちた。体勢を大きく崩し、ごろごろと後部回転しながら最前列の生徒の机に当たって止まった。目の前に星が出た。眼もクルクル回っていた。よろよろ立ち上がる。痛みは何も 感じない。『ドワワッ~』1年E組は隣のクラスにまで聞こえるほどの、もり上がりをみせ、そのため影の薄い佐藤昭雄の印象が濃くなったのは言う までもない。片や太陽の様な美少女、方や三日月の様に存在感の薄い華奢な男子。この対照的な二人の転校生の今後はどうなる。