takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

昭雄の事情その2

通う事となった学校から、1キロ程離れた杉林の中に昭雄の家はある。
廃屋かと思える位朽ち果てて今にも倒れそうな小さな家。 先月、母と二人で越してきたのであった。母の知人が無償で貸してくれた。 電気や水は来ているから文句は言えなかった。


昭雄が中学1年の時までは、極普通の笑いの絶えない家庭で何不自由なく過ごしていたのだが、父の会社が不景気の煽りを食って徹夜が続き、居眠り運転の末、橋の欄干に衝突しそのままあの世に逝ってしまった。残った二人は天国から地獄に真っ逆さまに落ちた。一挙に生活が苦しくなった。家を売り払い、母の実家の離れに住む事になった。兄夫婦は二世帯住宅を新築したばかり。離れに10年前、子供用に建てた勉強部屋がある。そこを借りた。僅かに残っている貯金と母の両親の援助で改築して、一応生活できる住まいとなったのである。祖父母は昭雄をとても可愛がった。叔父夫婦にも男の子供が三人いる。末っ子が昭雄と同級である。来たばかりの頃は物珍しさもあって、末っ子の浩之は親切にしてくれ仲良く遊ぶ日々が続いたのだが・・・。月日が経つうちに主従関係が出来てきた。 昭雄は大人しく真面目なので祖父が褒める。浩之は(というより叔父一家が)それが面白くない。浩之とて目だつほどの暴れん坊ではなく、普通よりちょっとヤンチャなだけなのだが・・・。ある日些細な事で口論になった。消しゴムを忘れた浩之が昭雄に借りに来たのだ。昭雄は母がお金に苦労しているのを見ているから、鉛筆一本、消しゴム一個とて無駄にしてはいけないと日頃思っていた。 その消しゴムが二日経っても返ってこない。口に出して返して欲しいと言うのも無粋な気がして、放課後、何気にアニメの話をきっかけにして話そうと考えた。一通り話が終り 「あのね~ヒロ君、おとといさ~・・」といいかけた時、浩之の眼が一瞬光った様な、そして底意地の悪い目付きになった様に思ったが、気付かぬ様に何気なさを装い「あ~忘れてしまった?消しゴム貸したの~」浩司はちょっと考えてる表情をとり、思い出したように「ああ~そうだったな~。あれ、無くした。」と、事も無げに言った。「榊原がな~俺の頭に投げてきたんだよ、消しゴムを~。授業中にだぜ、考えられね~やろ?だから思わず投げ返しちまったよ~お前の消しゴム~。奴って窓際だろ?避けられて窓の外に飛んじまった。いいだろ? 消しゴムくらい。他にもあるんだろ?せこい事言うなよな~」浩之と別れた後 、彼の教室の真下にある植木の辺りを、薄暗くなるまで這いつくばって探す昭雄がいた。それから一週間後ちょっとした用があり浩之の教室を訪れた。彼は席に居なかった。何気なく筆箱を見ると、何と昭雄が貸した消しゴムがそこに入っている。
無残な姿で・・殆ど原型は留めていないが昭雄にはすぐに判った。息を呑んでそれを見ているといつの間にか浩之が傍に立っていた。「あはっ、ばれたか~!」 楽しそうに笑った。怒りが込み上げて来た。血の気が引いたと思った。直後 、頭の天辺まで血が昇って来た。「なんだよこれ~!これ僕の消しゴムだろ~? 無くしたって言ってて、なんでここにあるんだよー!」顔が真っ赤になって、涙汲んで思わず浩之の胸ぐらを摑んでいた。それでも浩之は余裕の表情で、にやけながらこう言った。「昭ちゃん分かってないなあ。俺を殴るとお前ら家に住めなくなるんやで。お前、俺と同等だと思っているんか?いままで可哀想な宿無し親子やと思って黙ってたけど・・。分からせる必要あるな~。いいか~?頭に叩き込めよ!俺が上でお前は下なんだよ!俺が主人でお前は家来なんや!逆らったら、お前ら親子 うちから出て行ってもらうからな!わかったか?昭雄!」仲間がやって来て「浩之~お前~悪魔みたいな奴っちゃあな~」とニヤニヤしている。 それから浩之は、何かに付け昭雄を呼び出しては、小間使いをさせるようになった。