takakazuのブログ

家庭菜園と、趣味での小説

昭雄の事情・その4

熱にうなされながら三日三晩寝続けたらしい。ぼんやり目を開くと、母が心配そうな顔をしてこちらを見ている。笑ってみせるとホッとした顔で微笑んだ。よく見ると点滴をしている。「血がね~、出すぎたんだって・・それと傷口に汚水が入ったし。後、肺炎起しかかっていたって先生が・・・。でも峠は越したし命に別状無いって。母さん あんたに何かあったらどうしようかと思って・・・」 笑っているのだが、涙が後から後から溢れてきてどうしようもないらしい。 「昨日先生がきてね~、事情を話してくれたのよ。浩君の仲間に訊いたんだって。先生謝ってた。私の監督不行き届きだって。そんな事ありませんって言っといたよ。」「浩君は?」昭雄が聞いた。「少し前兄さんに連れられて様子を見に来た。 入ってきて出て行くまでうつむいたままだった。彼なりに反省してるんだろね。」
「そうか~」「母さんはね、昭雄。最初からこんな事になるんじゃないかと心配してたんだよ。なのに・・・。ごめんね昭雄、あんたに辛い思いさせちゃって・・・」 「何言ってんだよ母さん。僕は平気だよ。ほら!元気、元気ー!」そう言って細い腕を、天井に突き上げてみせた。「こらこら。まだ安静にしてなきゃ、この子ったら・・・」母は優しげに笑って昭雄を見た。「だからね、前から探してたんだよ、二人が気兼ねする事無く住めるところを・・・。古くから今も仲良くしている友達がね、だったら田舎に空き家があるんだけど住まない?って言ってくれてたの。でもオンボロ屋敷なのよ、見に行って来たけど。折角ここ改築したから惜しくてね・・・」「でもあんたが寝ている間に決心した。引っ越そう、オンボロ一軒家に!」「うん、いいね~!オンボロ一軒家~。その家少しずつ手直しして二人の好みの家に変えられるかも~!楽しみだ~」そう言って二人して声を上げて笑った。


結局、このおんぼろ一軒家に移り住んだのは一週間前。向うで中学を卒業し、取りあえずはと県立高校に入学してタイミングを計っていたのである。昭雄は今、この上なく幸せな気分であった。父がいたときのような贅沢はできないし、生活で不自由することは山ほどあるだろう。でも母とふたりなら我慢もできるし乗り越えられると思った。今はまだまだ子供だけど、高校を卒業し働けるようになったら、ここの土地を買い取って小さくてもいいから新しく家を建てよう。それが唯一無二の目標だと、密かに心に秘めているのである。